第二章 祈りのように

時間は止まったままだった。

それはまるで神が、誰か一人にだけ“告白の時間”を与えたかのような奇跡だった。


晃市は、静かに彼女の前へと立っていた。


伊沢美紀。

切れ長の瞳はわずかに開かれ、口元はそっと結ばれている。

動かない。だが、そこに確かに“生”の気配がある。


「美紀さん……」

それは、何年も心の中でだけ繰り返してきた、たったひとつの名前だった。


晃市は初めてその名前を呼んだ。心の奥にしまってきた、一言の呼びかけだった。

言葉は返らない。だが、返らなくていい。今夜だけはそれでいい。

「今まで言えなかったけど、ずっとずっとあなたを好きだったんだ。」

彼は、長い年月をかけて押し殺してきた想いを、ゆっくりと解き放っていく。


静かに固まっている美紀の頬へ伸ばした指先がそっと触れる――

その感触は、想像していたよりも温かく、柔らかかった。

彼は目を閉じ、そっと自分の唇を近づけ――優しく吸った。


深くも、激しくもない。

ただ、静かに、そっと。

まるで伝えきれない思いを言葉に足して、長く抑えてきた気持ちを滲ませるように。


晃市の手は、ためらいながらも美紀の胸元へと滑り降りた。

シャツの下、薄い布に支えられたふくらみを包み込むと、隔たり越しにも伝わる温もりと弾力に、自然と指が沈む。

片方をゆっくり揉み上げ、形を確かめるように撫でると、布地の張りが奥の感触をより鮮やかに想像させた。

もう片方にも手を添え、やや強く、しかし丁寧に、その温もりを味わう。

直接ではない。それでも十分だった。この一枚の隔たりが、むしろ彼の心を満たしていく。

薄布の奥に感じる肌の温度が、静止した空間にかすかに脈打っているように思えた。


晃市はしゃがみ込み、彼女の腰の丸みに静かに目を落とした。

彼女の腰回り――制服にかろうじて収まるほど豊かに変化したその曲線は、かつて初めて見た彼女の姿とはまるで違っていた。

けれど晃市にとって、それこそが、この世で最も愛おしい“今の彼女”そのものだった。


ゆっくりと、両手を伸ばす。

優しく、敬意と愛しさを込めて、ふくよかな腰に手を添える。

そのまま彼は、静かに頬を寄せた――


ほんの一瞬、時が止まるどころか、心までも凍りつくような沈黙。

その静けさの中で、彼は目を閉じたまま、何も語らず、ただその場所に頬を預けた。


何も奪わず、何も壊さず、ただ静かに頬をすり寄せた。

自分の中で、ひとつの想いに終止符を打つように。


やがて彼は身を起こし、そっと距離を戻した。


時間はまだ動き出さない。

晃市の心には、かすかな安堵があった。


言えなかった想いは、言葉ではなく、沈黙の中に置いてきた。


美紀には、この夜の記憶は残らない。

けれど彼にとって、この夜は、何よりも深く、長く刻まれることになるだろう。

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