第23話
今年の冬は暖冬らしい。二月も下旬になるのにほとんど雪は降らなかった。
学校が終わり、私は自転車でブラブラしながら帰っていた。
雪は降っていないが、向かい風はとても冷たくて耳と鼻が赤くなっているのが分かる。
私の人生はまだ四分の一くらいだろうけど、いろいろあった人生だった。
もうすぐ受験生だ。看護師になりたいという夢は前より強くなっていた。
なんだか清々しい気分だった。なぜだか分からない。
まあ、私は気分屋なので。
空は雲に覆われて、少し薄暗かった。雨が降らないか心配になった。
帰宅ラッシュの時間ではないので、車は少なく道路は空いていた。
私は白線の内側を走りながら、赤信号で止まった。ふと、一年前のことを思い出していた。
ベッドで何度も寝返りをうつが眠れなかった。
目覚まし時計を見ると、深夜一時をまわっていた。
一階に降り、冷蔵庫から麦茶を出してコップに注ぐと、一気に飲み干す。
暗闇に目が慣れてうっすらと見えるが、暗く静まり返った一軒家には、やはり不気味さを感じた。
小さい頃からの事だから慣れてはいたはずだが、今日に限っては何だか嫌な雰囲気が漂っている気がする。
まあ、気のせいだろうと、私はいつものように思考を切り捨てて二階に上がり、自分の部屋へと戻った。
「そういえば雪・・・、止んだかな?」
ふと気になって、カーテンに手を伸ばして開けてみた。
「うわっ」
思いがけない眩しさに驚き、一歩後退しながら目をギュッと瞑った。
「えっ?なんだ?」
ゆっくりと目を開けると、青白い光が強く窓から差し込んできていた。
一瞬、朝日が昇ったのかと思ったが、時計の針は午前一時過ぎを指している。
私は窓に近づきカーテンの隙間から外を覗き見た。
あれだけ吹雪いて積もっていたはずの雪が嘘のように消えていた。
そのまま空を見上げると、青白く光るとても大きな球体が夜空に浮かんでいた。
「うわぁ、きれい。あっ、これがスーパームーンか」
私は、その球体に吸い込まれるように魅入っていた。
……が。
「えっ、嘘…。どういうこと?」
青白く光る大きな球体の向こうにはいつもの見慣れた、より少しばかり大きめな満月があったのだ。
あれが月なら、その三倍ほどの大きさで光を発しているこの球体は何なの?
「これ、夢じゃ…ないよね」
私は軽く混乱しながら、ベッドにうつ伏せに飛び込んで、枕で頭を隠した。
一分ほどして私は呟いた。
「まあ、いいや」
信号が青になり回想を遮断する。私は自転車のペダルをこいだ。
「あっ、雪……」
突然、雪が降ってきた。だが、大きくて荒く重い雪は一気に吹雪となった。
襲ってくる冷たい雪に、目の前が全然見えくなり視界が閉ざされた。
私は自転車をこぐ足を止め、その場から動けなくなった。
ゴウゴウと吹雪が私を襲い続ける。
どうしよう。目を少しだけ開けて細目で前を見るがやはり何も見えない。
突如、左の方から眩しい光が私のもとへと近づいてきた。
「えっ」
私は咄嗟に自転車から飛び降りると共に、頭に両腕を覆いかぶせた。
しかし、大きな音とともに、一瞬の衝撃が身体を襲っていた。
私は真っ白な空へと飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます