君との糸のゆくえ

@skmtnk8922

第1話



(……あぁ、やっぱり気持ち悪い…)



体育館いっぱいに、そわそわした緊張感と期待感があふれている。

小島愛桜(こじまあいら)は、ひとり憂うつだった。視界に広がる情報量の多さに、体力を消耗されていたのだ。


彼女の視界には、無数の”糸”が広がっている。


色はさまざま。太いオレンジ色の糸で繋がるふたりは、仲親しげにひそひそと話をしている。

ピンク色で繋がる男女ふたりは、周りとはどこか違った緊張を纏った様子で互いをちらりと見ては、目をそらす。

そして、多くの生徒から後ろに設けられた保護者席へと青い糸がのびている。



「__それでは続いて、生徒会長あいさつです。」



ほとんど目を瞑って過ごしていた愛桜はそっと薄目を開いて、式次第に目をやる。



(次が生徒会長あいさつだから、あとは……あれ?)



あいさつのために壇上にのぼる男子生徒に、違和感と懐かしさを感じていた。

すらっと背が高く、綺麗な黒髪と白い肌が儚げな雰囲気を醸し出している。周りの女子生徒が少しざわつく中、愛桜は別の意味で彼から目が離せなくなっていた。



(……あのひとだけ、”糸”がみえない…?)



壇上に立つ彼からは、たった1本さえ糸が出ていなかったのだ。

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