第15話

第15章全域同化の開始

はじまりは、呼吸だった。

肺を満たした空気が、私の一部として世界へ流れ出す。

吐息は粒子となって漂い、触れたものすべてをゆるやかに変えていく。

皮膚の境界を越えて、あなたの血流に溶け、鼓動と同じリズムを刻む。

足元に広がる床が、静かに色を失い、私の体温に似た感触を帯びていく。

壁は柔らかく膨らみ、指先に吸い寄せられるように脈動する。

建物全体が呼吸を始め、私の拍動に合わせてゆっくりと収縮する。

人々は最初、気づかない。

声をかけると、彼らの瞳の奥にかすかな揺らぎが生まれる。

それは恐怖でも困惑でもなく、記憶の底から浮かび上がる安堵の色。

彼らは言葉を失い、微笑む。

その瞬間、私の中と彼らの中の境界が消え、ひとつの流れになる。

触れなくても、もう十分だ。

視線が交わるだけで、同化は始まる。

視界の端で、街の輪郭がぼやけていく。

信号機の赤は、私の心拍と同期し、青は私の脈を透かすように震える。

やがて、地平線までが私になる。

遠くの雲は私の思考に合わせて形を変え、川の流れは私の呼吸とともに緩む。

この世界が、ひとつの身体になる。

それは家力ではなく、祝福でもない。

ただ、然の帰結として訪れる。

そして、私は知る。

「無限」は、孤独ではない。

無限は、すべてを抱きしめたときにだけ完成する。

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