第4話
第4章 ずれる日常
朝の光が、やけに白い。
カーテン越しに射し込むはずの色が、無彩色に近い淡さを帯びている。
それでも時計の針は、何事もなかったかのように進んでいた。
一一昨日のことは、夢じゃない。
頭ではそう思う。だが、証拠は何もない。
スマホの履歴にも、あの灰色の空間は残っていなかった。
玄関を出ると、通学路の景色が妙に薄い。
交差点で待っている、号も、赤と青の境目が曖味に揺れているように見える。
隣に立っていたクラスメイトが、「おはよう」と声をかけてきた。
口元は動いているのに、声が耳に届くまで一瞬遅れた。
ずれている。
世界のほうが遅れているのか、私が早すぎるのか。
教室に着くと、机に突っ伏していた友達が顔を上げ、「昨日、部活サボったでしょ」と笑った。
そんなはずはない。昨日は....。
私は答えられず、ただ曖昧に笑った。
昼休み、廊下の窓から空を見上げる。
そこに一瞬だけ、あの灰色が混ざった。
ほんの刹那、現実の色が薄皮一枚めくれたように見えた。
一一間。
呼びかけられたわけでもないのに、脳内でその言葉が響く。
次の瞬間には、何事もなかったかのように空は元の青を取り戻していた。
午後の授業中、ノートを取る手がふと止まる。
紙の上の文字が、インクの線からわずかに浮き上がって見えた。
そのわずかな隙間が、あの空間の入口のような気がして、胸の奥がざわついた。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
音は確かに耳に入っているのに、私の体はまだ座ったまま動けない。
全員が教室を出て行き、静寂が訪れる。
ーーあなたは、また来る。
心の内側で、昨日と同じ声が囁いた。
それが予告なのか、命令なのかはわからない。
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