第41話

 扉の向こうは、この街の中心塔の内部だった。

 外からはわからなかったが、中は光沢のある金属の壁と無数のコードで埋め尽くされ、機械仕掛けの心臓のように低い振動音が響いている。


 「……ここが、街を管理してる核か」

 白神がぼそりと呟く。


 「関係者しか入れねぇんだろ? 見つかったら……」

 神谷が肩を竦める。


 「重罪確定だな。でも、それでもやるしかない」

 蘭華が短く言い切った。


 一行は視線を交わし、頷き合うとすぐに行動を開始した。

 蓮は右の通路へ。

 神谷は左の通路。

 白神は正面の通路。

 鷹真と蘭華は階段を駆け上がり、上層階へ向かう。


 それぞれが自分の役割を理解している。誰も迷わなかった。


 ――蓮の視界に広がったのは、常識を超えた光景だった。


 「……なんだ、これ」


 廊下の隅から隅まで、赤い光が網のように張り巡らされている。

 ゴーグルを通して見ると、ただの光線ではないことがわかる。エネルギーの流れが異常な密度で渦を巻き、触れた瞬間にただでは済まないと直感させた。


 「罠か……侵入者お断りってわけね」

 蓮は苦笑しながらも、呼吸を整える。


 壁の影から影へ、レーザーのわずかな隙間を縫って身体を滑り込ませる。

 肩を縮め、息を止め、腹筋をねじり、まるで糸の上を渡るような緊張感。


 一歩間違えば、即アウトだ。

 頭の中で「当たったらどうなる?」という想像がよぎりそうになるが、蓮は必死に振り払った。


 「……考えたら負けだ。進むことだけ考えろ」


 額から汗が流れ落ち、首筋を伝う。ゴーグルの奥で瞳がぎらついた。

 ――その時。


 反対側の通路から、耳をつんざく警報音が響いた。


 「ッ!?」

 蓮は思わず立ち止まり、振り返る。


 ピ――――――――ッ!


 音の方向は、神谷が進んだ左の通路だ。


 一方、神谷。


 「チッ……やっぱ身体が硬ぇな……」


 背中をわずかに捻った瞬間、衣服の端がレーザーにかすった。

 次の瞬間、壁の装置が赤く点滅し、警報が鳴り響く。


 「……やべ」


 そう呟いた直後、床が震えた。

 前方の壁が割れ、そこから漆黒の巨体が姿を現す。


 全長三メートルを超える人型ロボット。

 装甲は黒曜石のように黒光りし、腕は大砲のように太い。

 頭部のセンサーが赤く光り、機械音声が廊下に響いた。


 《侵入者、確認。排除を開始します》


 重低音が床を震わせ、ロボットが一歩前へ踏み出す。

 金属の脚が着地するたび、地鳴りのような衝撃が走った。


 「……ったく、こういうのは俺の役回りかよ」

 神谷は肩を竦めながらも、腰の剣を抜いた。


 その刹那、ロボットの右腕が変形し、銃口のような砲身が露出する。

 轟音と共に、火花を散らしてエネルギー弾が放たれた。


 「ッ……!」


 神谷は反射的に身を翻し、間一髪で回避する。

 後方の壁に直撃した弾は、爆ぜるように金属を抉り、火花を散らした。


 「……マジで当たったら洒落にならねぇ」

 舌打ちしながらも、神谷はロボットへ突っ込む。


 剣が唸りを上げ、漆黒の装甲に叩きつけられる――が、金属音を響かせて弾かれた。

 「クソ……硬ぇ……!」


 《排除開始》

 ロボットが拳を振り下ろす。

 神谷はそれを紙一重で避け、床を転がりながら距離を取る。


 (長引けばマズいな……ここでやられるわけには……!)


 額の汗をぬぐう暇もなく、次の攻撃が迫る。


 

 その頃――。


 「神谷さん……!?」

 正面通路を進んでいた白神も、警報音に気づいた。


 「……アイツ、やらかしたか」

 小声で悪態をつきながらも、剣を握り直す。


 上階を進んでいた蘭華と鷹真も、振動で足を止めた。

 「……神谷ね」

 蘭華はすぐに察したように冷静に言う。


 「助けに行く?」

 鷹真が問うと、蘭華は首を横に振った。

 「いいえ。私たちには上層の捜索がある。信じましょう」


 蓮はなおもレーザーの迷宮を突破していた。

 神谷の方の警報が気になって仕方ないが、立ち止まっている余裕はない。


 「……くそ、早く抜けて……援護に……!」


 ゴーグル越しに見えるレーザーを一筋ずつ読み切り、身体を紙のように捻って潜り抜ける。

 指先がわずかにかすめるだけでもアウトだ。


 心臓が破裂しそうなほど脈打ち、全身の神経が研ぎ澄まされる。


 ――そして、最後のレーザーを抜けた瞬間。


 蓮は荒く息を吐き、ゴーグルを外した。

 「……よし、突破……!」


 だが、その安堵も束の間。

 通路の奥から響いたのは、金属同士がぶつかる激しい衝撃音だった。

 神谷が、戦っている。


 蓮は剣を握り直し、走り出した。

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