日本一のプロゲーマーが異世界転生したら意味わからん強さしてました

Mini_00

第1話 プロゲーマー

「ナイス!お前上手すぎ!」


ヘッドホンから聞こえる同業者の声、俺はそっけない態度、興奮した同業者の声とは裏腹に淡々と次の指示をだす。


「次、別パが来るからケアして」


その言葉を発し、少しは喜べと言わんばかりの口調でわかったという...




そしてーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




真っ暗闇に響き渡るキーボードのカチカチ音、息を吞むような緊迫した状況の中、


最後に取り残された俺は一対一の勝負を制し大会の優勝を勝ち取った




3人パーティーで俺以外の二人はマイクの音が割れるような声で喜び、俺は『危なかった』『嬉しい』といいう表情を一切浮かべず、L字の机の下にある冷蔵庫から水を取り出して水分補給を取った。


部屋は多分六畳ぐらい、扉を開けると右側にベッド、そして部屋の左奥にそのL字型の机がある。というか俺の部屋にはそれしかない。




ふぅ...という安堵の声が耳に直接はいる。


「俺達ってこの大会優勝したら海外だよな!?」


「確かに、そうだったな!おいやばいじゃねぇかよ!」


「日本代表として…オフラインの大会に行っちゃうって事ですかい!?」


咄嗟に何で三下ムーブをかますんだよと心の中で突っ込むが…ふと、一人の同業者…チームメイトが俺に質問をする。


「なぁ、なんでお前ってそんなに喜ばねぇの?そろそろ教えてくれてもいいんじゃないのか?」


「海外で大会だぜ?観客の前でゲームするんだぜ?嬉しいだろ!」


気持ちが高揚しているせいなのか、少しだけ荒い息がマイクにかかり、ボフボフという音とともに聞いていた俺は音量を少しだけ小さくし、いやな顔をしながら座っている椅子を倒し何食わぬ顔で返答していた


「…一気に質問すんなよ」


「なんで!いいじゃねぇかよ!」


彼らは気づいていなかったが主人公…『久遠 正人くおん まさと』はその質問をうまく回避させるいい言い訳はないかと探してしまったせいで間が出来てしまった。


そして、暗い部屋の天井を見ながら…目をつむり口を開く


「ゲームしてるときは一瞬の油断が命取りになる。だから常に次の行動を考えてるからだ」


そのけだるさそうな声色で放った言葉は内心、こんな変な言い訳でいいのかと思考するが…まぁそれはあながち間違ってねぇし大丈夫だろと自分の中で自答する。


「ふ~ん…聞きたかったのはじゃないけど、まぁそういうことにしといてやるよ」


先程の荒い声とは裏腹に、少しだけ落ち着いたのかその話をチームメイトが終わらせた。


よかったと天を仰ぐが…直後、もう一人のチームメイトが話を遮るように発した言葉で倒していた椅子から体を起こしてパソコンのモニターを見る。


「次、俺達の優勝インタビューだぞ!」


そう言われ、俺は『またこれか』と少しいやそうな顔をしながらマイクを一時的にミュートする。これは決して話したくないからという理由でしているのではない、無論…話さなくていいのなら話さないのだが。簡単に説明すると3位から順番にインタビューをして、最後に優勝者である俺達がインタビューを受けるという形。これがめんどくさいのなんの…


今回の大会は少し特殊で世界と戦うための日本の頂点を決める大会に出場していた。


例えるなら全国大会に出るために県内の頂点を争っている感じ…それのゲーム版だ。毎年行われるその世界大会の優勝を胸に、大概の人はゲームを本気でプレイしている。それがプロゲーマー。


だが世の中はそんな簡単に回っちゃいない。e-sports teamを立ち上げては結果が出ずに解散、チームのオーナーが選手に給料が未払いなのが世間にばれて解散、あげたらキリがないほどに問題は出てくる。


そう…プロゲーマーとは先程話したのとプラスで基本的に給料を支払っているのが普通だ。それに見合った練習量、そして結果…言ってしまえば金は滝のように消え去ってしまう。結果が伴わなかったら当然その賞金をチームに入れることも、自分が手にすることも出来ない。だがその点、正人が所属しているゲーミングチームは日本一と言われている所に所属しているため問題はなかった。




「続いては、今大会優勝を勝ち取り!世界への切符を手にした…今この日本で最も熱いプロゲーミングチームJPS《ジャパンストライカー》の皆さんです!」


うるせぇ…と内心でつぶやきながら正人はミュート解除ボタンにマウスカーソルを合わせる。


世界大会を決める特別な大会、そしてそれはネットのライブ配信が行われている。公式配信5.8万人...他の配信者がウォッチパーティーをしているのもあって、視聴者数は10万人を優に超えている。


さすがに多いなと目を丸くさせながらマイクのミュートを解除する。


「ではさっそく、JPSのポップさんからお話を伺いたいと思います!今回の大会では凄まじい破壊力を見せてくれましたが世界大会が決まり、今のお気持ちを聞かせてください」


キャスター陣たちがニコニコとしながら正人のチームメンバー一人に質問を投げかける。


ネットの世界では自分の本名を公にしないので名前は基本適当だ...少なくとも俺は...。そして質問を投げかけられたチームメイトは表情を見なくてもわかる程の高揚とした声で口を開く。


「はい!すっごく嬉しいです!まずは純粋にその感想しか出てこない程には…はい…」


自分のテンションを自覚したのか、話していくうちに我に返り…ぎこちなさが言葉に出ていた。


「ありがとうございます!それではKRさんにも聞かせてください、今大会...ずばり優勝できたきっかけや秘訣などがあれば教えてください」


キャスター陣が淡々ともう一人のチームメイトに質問を投げかけ、正人は台本って便利だなぁと内心思う。質問を投げかけられたKRは最初のポップとは打って変わり、冷静かつ的確に返答をしていた。


「そうですね、きっかけかはわかりませんが…僕達はコミュニケーションを常に取り続け、チームの心臓がよく回るように従っただけです」


さてはこいつ…台本を用意していたな?と言わんばかりの表情を正人は浮かべていた。そしてキャスター陣はその返答は予想外だったのか、苦笑を浮かべて一瞬の沈黙が場を凍らせていた。


「ハハハ...なるほど」


必死に何か話そうとひねり出した結果がこの言葉、それを発した当の本人は少しだけ決まったなと言わんばかりのどや顔をしたときの鼻息がマイクにかかる。


「.....くっくっく」


最初に質問をされていたポップは笑いを堪えるのに必死だったが耐えきれず、声がもれてしまっていた。


当然正人は真顔、こんなもので緊張する必要もないし、見栄を張る必要もない。


一人のキャスター陣が話題を変えるように手を叩きながら…


「そ!し!て!今大会のMVP!そして世界でも注目されているチームの心臓!まさとさんに質問をさせていただきます」


そうやって紹介されながら片眉を上にあげ、持ち上げすぎだろと内心漏らす。


「あなたの状況判断は私達キャスターから見てもすごいです。まるで上から情報を取っているかのような完璧な動き、そして鋭いエイム。その強さはどこから来たものなんですか?」


キャスター陣は素朴な疑問を正人に投げかけていた。過去にチート疑いをかけられたことのある正人はまたこれも何食わぬ顔で話し始める。


「マップの構造を頭に入れ、次に敵の動きと自分たちの動きを照らし合わせる。そうするとおのずと答えは見つかるはずです」


正人が端的に話すと、これまた何を言われているのかわからないといったような…目をぱちぱちさせるキャスター陣の顔を見ていた。


(ほら…言った所で分からねぇじゃねぇかよ。)


頭をポリポリと搔きながらこのままじゃやばいと思ったのか正人はそのまま話を続けた。


「ですが全員、努力をしてきました。誰よりも。そしてその結果が出た。応援してくれている皆様、サポートしてくれている企業の方々には頭が上がらないです。いつもご支援ありがとうございます」


そういいながら正人もモニター越しにお辞儀をする。キャスター陣は拍手をしながらありがとうございますと言葉を告げ、チームメイトもぐすんと鼻水をすする音を立てて泣いていた。


後頭部に手を添えて、掻く動作をしながらこんなもんだろという表情を正人はしていた。




ふとモニターの横を見て流れているコメント欄を目にする。


『聖人すぎだろw』


『世界大会でまさと見れるとか最高だろ!』


『○○がいなくて見る気失せたわ』


『頑張れ!』


『かっこいい!』


などなど...ものすごく早く流れるそのコメント欄は普段何も感じない正人にとってすごく不思議な感情を抱いていた。嬉しさからなのか…はたまた疲れなのか。わからないが、どことなく…自分が今一番なんだと認識し、そっとそのコメント欄から目を背ける。




一通りのインタビューを終え、公式の通話が切れたところで…正人を含めた三人が、はぁ…とため息をこぼす。


「やっと終わった~…インタビューって嬉しいけど終わると疲れがどっと来るよなぁ」


「わかる、俺もう何も考えられねぇもん」


「何言ってんだよ、何も出てこない程嬉しいっていう薄っぺらい感想を述べた奴が」


「はぁ!?なんだよ!お前だって台本通りに読んでたたのか知らねぇが『チームの心臓』なんてかっこつけたこと言いやがって!」


その辺にしとけよという言葉が正人の口から出そうになったすぐ…言い合っていた二人は優勝した喜びを思い出すかのようにポップが口を開く。


「優勝ってさ、まじでやばくね?」


「やべぇね、正直実感あんまりねぇも…あるわめっちゃ」


「なんなんだよお前は!」


漫才的なことを繰り広げる二人、やれやれと手を額に当てて首を横に振る正人の姿、まさに優勝したものにしかできない優越感だった。


それはそうだろう、優勝以外は全員もれなくだ。それ以外の価値はない。


だからこそ、この空気感は他のチームより特別なものだと正人は理解する。


「くらはこの後どうすんの?」


ポップがそうKRに言葉をかける。くらとはあだ名みたいなものだ。


「ん~腹減ったから飯かな、ぴーはどうすんの?」


ぴーはポップの事である。日常的な会話を始める二人、そして俺は会話に入ろうとはせずパソコンのモニターの時間を目にする。


(もうこんな時間か、そろそろだな)


時刻は19時、大会の始まりが12時からだから…7時間もやっていたのかとカーテンを少しだけめくり暗くなっている空を眺めながら溜息を吐く


「お~い、まさと、おい!バカ!」


段々と声量がでかくなってくるポップの声が正人の耳に入り、ぼーっとしていた視界がハッとなり、正人はとっさに口を開く。


「あ~わりぃ、なんだって?」


椅子に座りなおしながら聞き返し、二人はやれやれと言わんばかりの声でお前なぁと口に出していた。


「お前はこの後用事あんの?飯食った後ゲームする予定だけど...」


何気ないチームメイトの言葉、その言葉には気まずさも何もない、ただ普通に俺をゲームに誘っているポップの声を正人は聞き、目をつむりながら話していた。


「今日は疲れたし、この後少しやることあるから先落ちるわ」


そう言いながら右手を頭の後ろに置き、ポリポリと掻きながら話していた。


だがチームメイトはそっかというだけで何も言わなかった。


「まぁ今日くらいはゆっくりしようぜ、明日からも世界大会に向けて練習があるんだし」


「それもそうだな」


KRは気を遣うようにポップに話し、ポップもそのKRの言葉を聞いて了承していた。


席を立とうとして正人は通話を切ろうとする…が、その手がぴたりと止まる。


「本当にありがとう、お前らと世界大会いけてよかった。それじゃあ、また」


そう言ってトゥルンという通話を切る音が耳に入り、もう一度椅子に座りなおす。


(何言ってんだ…俺…)


正人自身も予期せぬ行動をとっていて驚いていた。


両の手を顔に覆い、少しだけ頬を赤面させながら、恥ずかしい…ただただ恥ずかしいという思いを全面に出していた。


そして10秒程度が経ったところで両手をぶらんと下ろし、真っ暗闇の天井を見て小さくつぶやく。


「意外と…嬉しかったんだな」




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