第16話 指導者の器

メラブが故郷からの誘いを断ったことで、ダビデの仲間たちは、彼女に対する信頼をさらに深めた。

彼らは、メラブを単なる「ダビデの妻」ではなく、自らの未来を共に歩む、かけがえのない仲間として受け入れた。

メラブは、彼らと共に狩りをしたり、パンを焼いたり、傷ついた者たちの手当てをしたりと、彼女にできることを精一杯行った。


彼女の存在は、男ばかりの荒くれ者の集団に、温かさと安らぎをもたらした。

ダビデは、日を追うごとに、指導者としての器を確立していった。


彼は、仲間たちの小さな争いにも、公平な心で向き合い、一人ひとりの声に耳を傾けた。

彼の元には、サウル王の圧政に苦しむ人々や、社会の片隅に追いやられた者たちが次々と集まってきた。

彼らは、ダビデの中に、新たな王としての希望を見出していた。


ある日の夜、ダビデとメラブは、二人だけで遠くの丘に登り、夜空に輝く星々を見上げていた。


「私は、この星々のように、多くの人々を導くことができるだろうか?」


ダビデがそう呟くと、メラブは彼の手にそっと触れた。


「あなたは、もうすでに、多くの人々を導いている。

王座にいるからではない。人々の心に希望の光を灯しているからです」


メラブの言葉に、ダビデは静かに微笑んだ。

彼の心には、王座への野心はなかった。

そこにあったのは、ただ人々を愛し、彼らが平和に暮らせる世界を築きたいという、純粋な願いだけだった。メラブは、その願いを心から理解し、彼と共に歩むことを、改めて誓った。


その夜、メラブはダビデに、故郷で父が愛した場所、そして彼が大切にしていた歌の話を語った。

それは、ペリシテの民が古くから伝えてきた、星々や海への賛歌だった。

ダビデは、メラブの故郷の物語に心を傾け、そして静かに、自分の竪琴を取り出した。


彼は、メラブが語るペリシテの歌に、彼自身の故郷の歌を織り交ぜ、二つの民族の歌が一つになった、新たな旋律を奏でた。


その美しい音色は、広大な夜空に響き渡り、二人の心を、より深く結びつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る