第7話 勘違い
日曜日。
今日も俺の自宅を訪問する杉原。
ドアフォンの画面を確認すると、白のTシャツに青のショートパンツといったラフな格好の杉原が映る。
今日は決行の日だ。冷たく対応しないと。
俺は心の準備を始める。
洗面所の鏡で顔や身だしなみの状態を確認した後、リビングから廊下に移動する。
今日はスニーカーではなくクロックスを履く。
「あっ!? 柳井さん!! 今日もおはようございます!!! 」
杉原は俺の姿を認識すると嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「…ああ。おはよう」
俺は愛想のない表情で挨拶を返す。
「今日はどこに行きますか? 昨日がショッピングセンターだったから、それ以外がいいですね。例えば映画とかどうですか? 」
杉原はニコニコしながら提案する。
「いや、今日はいい」
俺は杉原に視線を向けずに、あっさりと断る。
「え…」
杉原の顔から笑顔が消える。
「今…なんて? 」
力無い声で尋ねる杉原。
「聞こえなかったか? 今日はいいと言ったんだ。だから帰ってくれ」
俺は踵を返す。
「ま、待ってください!! どうしてですか!! 」
製止を試みる杉原。
「…」
俺は背中に伝わる悲鳴のような杉原の声を無視し、自宅のドアを完全に閉め、施錠もする。
ピンポン。ピンポン。ピンポン。
何度もドアフォンの音が自宅に響き渡るが、全て無視する。
杉原の存在を忘れるために2階に上がり、自身の部屋に籠る俺。
1時間ほど自分の部屋に籠り続けた。
「ちょっとコンビニで昼食の弁当でも買うか」
俺は自分の部屋を後にし、ゆっくり階段を降りる。
杉原も流石に帰っただろ。だいぶ前にな。
俺は杉原のことを考えながら1階に足を踏み入れ、スマートフォンと財布を用意し、廊下でクロックスを履いてから自宅のドアをカギと共に開け放つ。
外から太陽の光が差し込む。眩しい日が俺の身体を照らす。
「おいおい」
俺は驚きを隠せない。
自宅のポスト近くの数段の階段で腰を下ろして待ち続ける杉原の姿があった。純白の顔や手足には大量の汗が目立つ。
俺はドアを開けっぱなしにし、杉原に駆け寄る。
「杉原! ちょっと中に入れ」
「え!? ちょっ!? ちょっと!? 」
俺は杉原の返事を待たずに腕を引っ張り、強引に自宅に入れる。
「ほら! 靴脱いで!! 」
杉原に靴を脱ぐように促す。
「う、うん」
杉原は言われるままに慌てた様子で靴を脱ぐ。俺も倣ってクロックスを脱ぎ捨てる。
「ちょっと待ってて」
俺は杉原の腕から手を離し、廊下から隣のリビングに移動する。
リモコンを操作してリビングのエアコンのスイッチを付ける。温度は22度、風量はマックスにする。
「ほら! 早く入って!! 」
俺はリビングのドアを開け放ち、廊下に移動してから杉原の汗でびっしょの背中を強引に押して、リビングまで移動させる。
「ほら、ソファで座ってろ! 」
杉原をリビングのソファまで案内する。
「はあぁ~〜。涼しい~〜」
杉原はソファに腰を下ろし、気持ちよさそうに目を瞑る。顔や額からは未だに多くの汗が流れる。
「どうして。どうして待ってた! 暑さでやられてしまうぞ!! 」
俺は強い口調で杉原を非難する。それほど杉原の行いは危ないものだった。下手したら熱中症になって生死に関わる可能性だってあった。
「だって。…だって! 柳井さんが私を突き放すようなこと言うから。いつもと態度も違ったし! 」
杉原は悲しそうな目で俺を一直線に見つめる。
「どうしてそんな冷たいんですか! どうして今日はいいですか! 教えて欲しいです。知らないと帰らないです! 絶対に!! 何時間でも待ちます!! 例え外でも中でも」
「…それは」
俺の頭に茶髪のイケメンと隣で楽しそうに歩く杉原の姿が浮かぶ。
「それは。なんですか? 」
逃さない杉原。
「それは…杉原には彼氏が居るから。茶髪のイケメンの彼氏が。だから俺は杉原と一緒に居ちゃいけないと思って距離を置こうと」
俺は杉原を直視できずに、理由だけを説明する。
「茶髪のイケメンの彼氏? 」
杉原はキョトンとする。
「もしかして――」
杉原はスマートフォンを操作し、画面を俺に見えるように向ける。スマートフォンの画面には茶髪のイケメンが映る。前にスーパーの帰り道で見たイケメンそのものだ。
「こんな人だったりします? 」
杉原は真剣な表情で尋ねる。
「あ、ああ。この人で間違いない」
俺は首を縦に振る。
「この人、彼氏じゃないです。従兄です」
「は…」
俊平の顔が固まる。
「聞こえませんでしたか? この人、私の従兄です。親戚です。名前は杉原弥彦といいます」
杉原は繰り返し説明する。
「…すいませんでした~〜!!! 」
俺は今までの全ての行いに対して謝罪のために、大きな詫びの言葉と共に深々と杉原に向けて頭を下げた。
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