争道

しぇふ

第1話 灯家の流れ星

 人は移動するときにどうするか。そう、答えはシンプルに『道を進む』。たったこれだけで人は行きたい場所に行くことができる。だが、その『道』が自由に使えるものではなかったら?

 この物語は、そんな世界でしぶとく生きる俺の物語だ。



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 「坊っちゃん、早く起きてください。今日は大事な日なんですからしっかりしてくださいね」

 

 大事な日?あぁ、今日は鑑定日か。


 人に一つは宿ると言われている、、それを見極める日だった気がする。ちなみにうち、とう家では、代々火の技が遺伝している、だったはず。


 「なにが大事な日だ・・・寝てる方が大事に決まってるだろ!」

 「何をおっしゃってるんですか」

 「何って、どうせいつも通りに爺さんがふんぞり返ってる前でいろいろ視られるだけだろ」

 「まぁ!そんなことを言って、どうなっても知りませんよ!」

 「大丈夫大丈夫」

 

 俺がこうやって自信を持っていられるのには理由がある。何しろ俺が一族の期待の新星とまで言われている男だからだ。今日の鑑定だって火じゃなくて灯の結果がでるかもしれない。だって俺が一族で一番有能なんだもんな〜


 「早く朝食でもとられたらいかがですか?!」

 「はいはーい」

 「チッ」


 今舌打ちされた気がするが、ただの僻みだろうな。だって俺が一番なんだからな!



ーーーーーーーーーー




 「おはようございます、母様」

 「おはよう、れい

 「おはようございます、兄様」

 「おう、おはよう、きょう

 「兄様、やっとですね!」

 「あぁ!サクッと火でも灯の技でもなんでも見せつけて、父様と母様、叶、皆がもっと楽しく暮らせるようにしてやるよ!」

 「あらあら、頼もしいわねぇ」

 「もちろんです、だって俺が一番なんですから!」

 「で、父様は?」

 「あのひとは準備があるからってちょっと前に出たわよ」 

 「父様も見ててくれるかな〜」

 「もちろん、皆見に行きますよ。さ、麗も叶も、準備しなきゃいけないんだから早く食べなさい。」

 「「はーい」」




ーーーーーーーーーー





 灯家の鑑定は分家と本家の合同で行われる。だから、かなりの人数になるとは思っていたが・・・100人はいるんじゃないか?!知っている顔も何人かいるから不安なわけじゃないけど、どれだけ時間をかけるつもりなんだ?一番最初に視られるといいんだけどな〜こればっかりは運だからわかんねぇな。ただ、できるだけ早く帰りたいな。最後になると夕方ぐらいになるからな。

 

 「只今より、鑑定の儀を始める!番号を呼ばれたものからくるように!」


 相変わらずでかい声だな。なんでまだ元気なんだよあの爺さん。いつもみたいに高いところから見下ろしやがって。俺がガキの頃から見た目が変わってねぇぞ!一体どうなってんだよあの爺さん。

 

 「19番!」


 流石に最初はねぇか。一番期待されてるから最後とかだろうな。じゃぁ夕方じゃねぇか!



ーーーーーーーーーー



 

 いや本当に最後かよ!2時間はたってんじゃねぇのか?

鑑定は一人一人結構時間がかかる。政府からこの日のためだけに送られた人が技を使ってそいつに宿った技を視る(灯家の人間は絶対に火か灯だけど念の為らしい)、そして発動条件を教える(人によって違う)。

 たったこれだけだけど、発動に時間がかかるやつがいるんだ(たいてい分家のやつ)。


 「47番!」


 やっとか。

ふん、爺さん今に見とけよ。


 「それではここに」

 「おねがいしまーす」


 うおっ、なんだコレ。頭の中に直接手ぶち込まれてるみてぇだ。なんかめまいするし。2度とうけたくねぇ。吐き気がする。


 「えっ、これは・・」


 なんだよ、気になるんだけど、早く終わらせてくれよ。もしかして希少な灯なのか!?じゃなきゃこんな反応しねぇよな!?


 「お、終わりです」

 「で、俺の技、どっちだった?火?それとも灯?」

 「どちらでもありません・・・」

 「は?」

 「あなたの技は、血管、です」

 「けっかん?」


 けっかんって血管?え、俺の体にもある、あれ?なにができんの?まさかの欠陥とか?嫌だぞそんなの!俺が欠陥品みたいじゃねぇか!何なんだよケッカンって!


 「ぐ、具体的にどんなものなんだよ」

 「わかりません、ただ血管としか・・・」

 「条件は?」

 「意識すれば出てくる、と」

 

 意識?

 うわ本当だ。あるって思った瞬間からどんどん飛び出てくるんだけど、キモチワル。

しかも止まらないんだけど、これどんだけ伸びるんだ?手以外からも出せるのかな?


 「麗!どういうことだそれは!」

 「じ、爺さん、俺にわかるわけがないだろ!」

 「貴様は本家の人間のはずだ!なぜ灯家のものですらない技を宿している!?」

 「知ったこっちゃないだろ!」


 俺が一番知りたいことなのに!好き勝手言いやがって!大体、視たやつが間違えたんじゃないのか?本家は確定で灯か火のはずだろ!?灯のやつなんて見たことねぇけど。

 

 「とりあえずさっさとそれを止めろ!」


やべぇ!いつの間にか床一面に広がってやがる!

と、止めるていったって、どうすればいいんだ?

そっか、あるって思ったから出たんだ。なら、ないって思えばいいのか。

 するとどんどん体の中にケッカンは入っていった。

 

 「はい、止めました」

 「はぁ、お前には期待してたんだがなぁ。しょうがない、後で私の部屋に来なさい」


 あれ?俺、なんかしちゃいました?



ーーーーーーーーーー




 「麗!大丈夫か?!」

 「大丈夫です。いや〜なんかすごいことになりましたね?」

 「何いってんだ!お前どうなるかわかっているのか!」

 「と、父様?どういうことですか?」

 「灯家ではこういった異分子は処刑されるんだよ!」

 「え、じゃあ、俺、殺されるの?」

 「・・・そういうことだ」


 何だよそれ!急展開すぎるだろ!は?灯も火も使えないやつは殺されるってことかよ!雑用ぐらいはできるんだから生かしてくれよ! 


 「嫌だよそんなの!」

 「当たり前だ!お前を殺させるわけにはいかない!だから今すぐ逃げろ!お前がいなくなったことは俺がどうにかしてやる!」

 「今すぐ?」

 「今すぐだ!」

 「・・・兄様に会えなくなっちゃうんですか?」

 「叶・・・」

 「ぐずぐずするな!今すぐ灯家の領道りょうどうからでろ!」

 「領道!?父様、灯家の領道がどれぐらいの広さかわかってるんですか!?」

 「そんな事知っている。だが、少しでも生き延びるためだ!さっさと行け!」

 「そ、そんな・・・か、母様はそれでいいんですか!」

 「黙りなさい!」

 「え・・・母様?」

 「あんたなんか知らないわ!どっかに行ってちょうだい!」

 「は?」


 嘘だ、あの優しい母様が、俺のことをたくさん愛してくれた母様が?


 「だ、そうだ。もう灯家にお前の居場所はない。俺も気が変わった。だってお前は殺されてもしょうがないやつだからな。2度と近づくな。正直に言うと、お前などもうどうでもいい。」


 俺は駆け出していた。あんなに愛してくれて、あんなに愛していた家族が、こんなになってしまって、悔しかった、これからのことで寂しかった。なのに見捨てられた。

 悲しかった。

 本当に居場所がなくなることを実感した。家族がいなくなることも実感した。でも、認めたくない。俺が一番なのに、で、父様と母様と叶が二番目で、灯家の奴らが一番下なのに。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 もうあんなに遠くに灯家がある。いつの間にかだいぶ走っていた。でも、距離は離れていっているのに、家族への思いは反比例していく。

 もう、戻ってしまおうか・・・


 「何を悩んどるんじゃ?」

 「うおっ爺さん?!」

 「後で部屋に来い、といったじゃろう。どうしたんじゃ、こんなとこまで。あと少しで安全な灯家の領道から出てしまうぞ?さぁ、家に帰ろう。皆待っておるぞ」

 「うん!でも、かえっていいのか」

 「やれやれ、皆お前のために準備をしておるというのに、主役がおらんとどうにもならんでわないか」

 「主役?なんのことだよ?」

 「お前の大好きな父様から言われなかったか?」

 「?」

 「おかしいのう、大人たちは皆知っておると思ったんじゃが。更に主役にまでおしえんとは。今日みたいなことがあるたびに主役の晴れ姿を楽しみにしとったんじゃが」

 「何だよ、今日みたいなことって。祭りでもあんのか?」

 「そうともいえるのう、わしにとっては、じゃが。」

 「はっきり言えよ!何なんだよ!」


 瞬間、爺さんが逆さになった。


 「がはっ」


 逆さになったのは俺だけだった。そう思ったときには数十メートル蹴り飛ばされていた。


 「残念じゃのう、残念じゃのう、お前には期待しとったんだが。こんな風になってしまうとは。誠に残念じゃ」

 「げふっ」

 「おや、血を吐くとはどこかの内臓が潰れたかの。残念じゃのう」

 

 このジジィ、明らかにおかしすぎる!拳や足が人の硬さじゃない。


 「麗、このままここで寂しく死ぬか?それとも皆の前で死ぬか?」

 「・・・が」 

 「なんじゃ?」

 「馬鹿が!!誰が死ぬか!死ぬのはテメェだ!」

 「嬉しいのう、これだからこの役はやめられん。すぐには死ぬなよ」




ーーーーーーーーーー





 「麗や、もうやめにしよう。寂しく死ぬのは嫌じゃろうて。お前の最後は華々しくしてやるから。な、もうやめにしよう。何本折れた?何箇所潰れた?目は、どの範囲まで見えとるんじゃ?それ以上動く気力はあるのか?ないはずじゃ。まったく、お前が弱いせいでどんどん蹴り飛ばされるから、追いかけるのがちと面倒なんじゃぞ」

 「じ、ジジィ。」

 「爺さん、と最期くらいまた呼んでくれたほうが嬉しいんじゃが」

 「領道の決まりって知ってっか?」


 領道には他家の領道には入ってはならない、というルールが有る。そしてこの道は、灯家からとなりの家につながる政道。ゴールはあと少しってわけだ。

 

 「なるほど、蹴り飛ばされてきたのはこのためか。だが、ちぃと足りんのう。どうするんじゃ?また蹴り飛ばしたほうが良いかの?じゃが次は顔面にいくぞ。脳がぶちまけるかもしれんなぁ」

 「勘違いすんなよジジィ。ジジィはあくまでもお手伝いだ。仕上げは俺がやる」

 「っは!?」

 「じゃーな、ジジィ!」


 簡単なことをやってやった。俺の技でケッカンを他家の領道の場所まで引っ掛けた。あとはそこまで自分の体を引き寄せるだけだ。

 

 「まだわしが、バイバイしとらんぞ」


一瞬で距離を詰められた?!

 

 「ぐああああああああジジィてめぇ!」

 「おっと、引き留めようとしただけじゃぞ。まさか右腕ごと持っていけるとは。ま、どうせ死ぬじゃろ。ほら、行って良いぞ。」

「あぁ、それと、バイバイ」

 

 クソックソックソ!どっちみち死ぬのかよ!なんとか政道を抜けて他家の領道に転がり込めたけど、血が止まらねぇ!せっかく生きれるはずだったのに!また、父様たちに会えると思ったのに!


 「・・・ク・・ソ・・・・が」





ーーーーーーーーーー






 「おねぇちゃん、あのコどうすればいいかわかる?」

 「決まってる!うちの妹の領道に入ったんだ!息の根止めてやる!」

 「おねぇちゃん」

 「まずは安全な場所に連れて行ってから治療すべきだと思います」

 「よくできました」

 「イェーイ!抱っこして!」

 「しない」 

 「そんなぁ・・・」

 

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