白い立方体のアラーム

やです。

第一章 分岐朝

 月曜の朝。僕の人生は、バグだらけのコードみたいだった。

 選択肢が多すぎる。昼飯のメニューから、返信メールの言葉選びまで。脳内でif文が無限に枝分かれして、思考は頻繁にフリーズする。その結果が、先月のプロジェクトでの大きなミスだった。僕の優柔不断さが、チームに迷惑をかけた。

 もう、考えるのはやめだ。

 週末に買った、真っ白な六面体のサイコロ。それを机の真ん中に置く。隣には、新しいノート。最初のページに、震える手で自分だけのルールを書きつけた。

Dice Driven Life ver 0.1

// 人生ハック化計画・試作


1. すべての行動選択は、原則サイコロに従う。

2. 選択肢は6つ以内。二択の場合は 奇数=A, 偶数=B とする。

3. 出た目には必ず従うこと。例外処理は、ない。// これ絶対!


 最初の実験は、ランチ。山口が「ラーメンどうすか?」と声をかけてくる。いつもなら「うーん、どうしようかな……」と5分は悩む場面だ。

 僕のノートには、こう書かれている。

今日のランチ候補:

1-2: 山口とラーメン

3-4: 社食のA定食

5-6: コンビニのサンドイッチ


 ポケットの中でサイコロを握る。ひんやりとしたプラスチックの感触。転がすと、軽い音を立てて「2」が出た。

 「行く」

 「お、決断早いじゃないすか!」

 山口が意外そうな顔をする。

 ラーメン屋のカウンター。ここでもサイコロを振る。奇数、醤油。偶数、味噌。「5」。

 「醤油ラーメン、お願いします」

 迷わない。それだけで、脳のメモリが解放されていく感じがした。スープの味が、いつもよりクリアに感じられる。

 帰り道、山口が言った。

 「なんか今日、吹っ切れてません? OS入れ替えたみたいな」

 「まあ、そんなとこだよ。思考OSのマイナーアップデート」

 「またまたー」

 自席に戻り、ノートに今日のログを書き込む。

ログ:初日

Lunch Roll: 2 (ラーメン) > 5 (醤油)

結果:正常に動作。思考コストの大幅な削減を確認。

気分:良好。バグだらけの自分から、少しだけ抜け出せた気がする。


 ノートを閉じる。世界が少しだけ、シンプルに見えた。この白い立方体は、僕のバグを修正してくれるパッチになるかもしれない。そんな期待が、胸の片隅で静かに芽吹いていた。

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