第12話 敵か味方か、それぞれの選択
「デートだったんだろう? このまま帰るのか?」
「もう夕方だしな」
「早く帰ってみんなを休ませてあげないとね。それにあんまり遅く帰ると、またパパに怒られるもの」
「楓のお父さんは、時間には厳しいもんな」
「仕方ないよ。またいつ奴らが現れるか。遅くまで遊び回ってて、その時にもしも奴らが現れて、暗闇に紛れて襲われたら……。パパはそれをとっても心配してるから。ママのこともあるしね」
「あの時は大変だったみたいだしな」
「俺たちは小さすぎて記憶にないけど、じいちゃんたちも父さんたちも、あの戦闘は大変だったって言ってたよ」
結局あの後、戦闘は問題なく終わり、その時点で時刻は16時近く。悠馬と楓はせっかくのデートだったけど、楓には門限があるから、そのままみんなで帰ることになったんだ。
楓の家は今話した通り、お父さんが門限にとても厳しい。ただ、それにはちゃんとした理由がある。
俺たちが2歳の頃のことだ。ここではなく隣の支部でSランクのゲートが開き、大きな被害が出る出来事が発生。
しかもそれが深夜0時近くだったため、すでに寝ている人も多く避難が遅れ。さらに暗闇に紛れて、異世界人や魔獣が攻め込んできたせいで、被害はより一層拡大してしまった。
その時、楓のお母さんはたまたま、ゲートが現れた付近の警戒任務に就いており、突然暗闇から現れた魔獣に襲われてしまったんだ。
家族あやかしが必死に守ってくれたおかげで、命は助かったものの大怪我を負い。1ヶ月もの間意識が戻らず、生死の境をさまようことに。
それがあって楓のお父さんは、戦闘に呼ばれている時は別だけど、他は19時までには家に帰ることと、門限を決めているんだ。
ちなみに楓のお母さんは1ヶ月後に目を覚まし、リハビリを経て回復。今では時々、うちの母さんと一緒に、異世界人や魔獣をバッシバッシと薙ぎ倒している。
「いつゲートが現れるか分かんないもんな」
「最近だと、深夜2時っていうのがあったわよね」
「ランクが低くて良かったって、テレビで何度も放送してたよな」
「こればかりはなぁ。いつ、どこにって分かれば良いんだけど」
「なんか向こうも、分からないって言ってるみたいじゃん」
「どこまで信じていいのかしらね。全部嘘ってこともありうるでしょう?」
「でも、こっちで戦ってくれているのも事実だしな。ま、こっちからも向こうに行った奴はいるけどさ」
異世界人と戦い始めてから約80年。この長い間、戦闘以外にも、異世界人といろいろなことがあったんだ。
異世界人も別に心がない人物じゃなく、ちゃんと自分の考えを持っていて。そんな異世界人の中には、地球侵略に反対の異世界人たちも……。
その異世界人たちが、この80年の間にかなりこちらへ来てくれて、たくさんの情報を与えてくれたんだ。しかもそれだけじゃなく、俺たちと一緒に異世界人と魔獣たちと戦ってくれていてさ。
と、そんな異世界人たちに、もちろんゲートのことも聞いたけど。ゲートについては、異世界人もきちんとした事が分からないようで。
力を使い、ゲートを作るらしいんだけど、いつ、どのくらいの力のゲートを作ることができるのか、それは分からない。と、いう報告がされている。
だから楓じゃないけど、こちらの味方だと言いながら、実はこちらを陥れようとして、俺たちの仲間になって。それでゲートのことを、話していないんじゃないか。他も嘘なんじゃないかって、疑っている人達も多い。
ちなみに、異世界人がこちらへ来てくれたように、逆に異世界人たちの考えに賛同し、向こうに行った地球人たちもいてさ。まぁ、それぞれ考えは違うから仕方がないんだけど。こっちの情報もかなり向こうは知っているって。
「まぁ、今のところ戦えてるからな。最初に味方になってくれた異世界人が来てから、もう何10年と経ってるんだぞ? もしも騙す気でこっちに来てるなら、もう何か仕掛けてるんじゃないか?」
「そうなんだけど、どうにもね」
「そういえば、お前は異世界人と話したことがあるんだよな? 異世界人ってどんな感じだったんだ?」
悠馬と楓が俺を見てくる。そう実は、俺は異世界人と直接話しをした事がある。というか、バッチリ関わったことがあるんだ。まぁ、本当に偶然だったんだけどな。
「どう? って言われても、話し方は俺たちと変わらなかったぞ。ちゃんと日本語で話してくれたし。といっても、少し話しをしただけで、あとは和也おじさんが対処したからさ。ここを仕切っている人間に会いたいって言われて、和也おじさんを呼んだらありがとうって。それに魔獣もちゃんと言うことを聞いてて、異世界人のことを心配していた」
「へぇ、それだけ聞くと、俺たちと変わらないって感じだな。いつもこっちをやってやるっる! って感じの異世界人しか見たことないからさ。それにしても、あいつら凄いよな。日本語も英語も、どこの国の言葉も、ちゃんと覚えてくるんだもんな。俺なんて日本語以外ぜんぜんなのに」
「日本語も危ういじゃない。今度の国語のテスト、赤点を取らないようにね」
「テストの話しはするなよ」
異世界人たちの話しをしていたのに、いつの間にか話しはテストの話しに。そういや悠馬、この前の試験は赤点をいくつとってた?
そのあとは、今度の試験について話しながら帰った俺たち。15分くらい歩いたところで、分かれ道に差し掛かり、本来なら俺と悠馬は同じ道へ、楓とはここで別れるんだけど。
今日は異世界人が攻めてきたってことで、悠馬は楓を送っていくって。だから2人とは、ここで別れることになった。
「じゃあな、明日また学校でな!」
「じゃあね。みんな今日は本当にかわいかったわよ。また可愛い登場と可愛い掛け声を聞かせてね。他のみんなにも、楽しみにしてるって伝えて」
『分かったぷー。もっと可愛く頑張るぷー』
『ボクも可愛いポーズ考えなくちゃくま』
『僕たちはもっと完璧を目指そうね』
「俺も楽しみにしてるぜ。なんてったって、俺もお前たちのファンだからな」
『悠馬、私たちのファンって言うけど本当? なんか違う気がするのよね?』
『そうですわ。なんか違う気がすしますわ』
「なんだよ、俺は本当にお前たちのファンだぞ?」
「本当かしらねぇ」
「何だよ、楓まで」
「まぁ、バレないようにするのね」
コソッと悠馬にそう言った楓。まったくだ、楓の言ったことじゃないけど、もしもバレても俺は助けないからな。
悠馬、みんなのファンと言っているけれど。ファンの人たちの半分は、みんなを可愛いと思った以外に、もう1つの理由でファンになった人たちだって言っただろう?
悠馬は可愛い方じゃなくて、もう1つの理由の方のファンなんだ。だからもしもそれがバレたら、絶対に悠馬はクルルたちの仕置きを受けることになると思う。
「本当気をつけろよ」
「何だよ、ファンなのは本当なのに」
「ほら、行くわよ。じゃあね!」
『バイバイぷー』
『みんなバイバイ!!』
ブツブツ言っている悠馬を、楓がグイグイ引っ張りながら歩いて行く。
「さぁ、俺たちも行こう」
『じいちゃんたちの所行かないのか? まだ大丈夫だろう?』
「ばあちゃんは明日って言ってただろう。前の和菓子が残ってるから、今日はそれにしておけ。セレナ、飛んで帰ろう」
『分かりましたわ!!』
みんなでセレナに乗り家へ帰る。さて、この前に引き続き、クルルとヒナタたちが可愛いを敵に披露したからな。他のみんなが次は自分がって言ってくるはずだ。喧嘩させないようにしないと。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
「何だって? それは本当か?」
「はい、今連絡が」
「何でまた……。初めて話した人間が優希だったからか?」
「どうなのでしょう。ああ、それと彼だけでなく魔獣たちの方も、同じことを言っているようです」
「は? 魔獣たちが優希と?」
「いえ、魔獣の方はクルルたちの方です。ただ、報告して来た者の様子が、少々困惑していたので、どうしたのかと尋ねたところ。例の彼ですが、魔獣たちのことを優先して、こちらに来たようです。そしてその魔獣たちが……」
「はぁ!? まさか本当にそれでこっちへ来たのか!?」
「本人はそう言っているそうですよ。彼らの責任者は支部長、あなたですからね。あとはあなたに任せるそうです」
「はぁぁぁ、分かった。明日会ってくる。優希たちのことはそれから考えよう。まったく、あいつらのあれは、敵まで動かすのかよ」
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