四月九日(佐藤太志)

 教室の外にあるグラウンドからは、サッカー部の掛け声が聞こえる。

三年生の教室は高い。

「七人制ラグビーとは、その名の通り一チーム七人で闘うラグビーのことで、通常の十五人制ラグビーと同じコートで行うけど、試合時間が前後半が七分ずつでハーフが二分以内だったり、スクラムやラインアウトとかのセットプレイが簡略化されていたりするんだ。」

前に立っている遠藤先輩が、黒板をバンと叩く。

乾いて清々しい音だ。

スクラムやラインアウトを大人数でやる高校ルールに憧れていたがしょうがない。

落ちた方が悪いという、開き直りともとれる考え方で振り切れた。

「十五人制と比べて、とてもスピード感があって、人数が少ない分より個人の技術や身体能力に勝敗が左右されやすい。だから、人数が少なくても、俺たちの体力や技術で分がないわけじゃないと思うんだ」

キャプテンの遠藤先輩がそう言い終える。制服の白が赤黒い肌と黒い髪に映える。

今日はミーティングだ。

顧問の北条先生とは職員室で入部届を出したきり会っていない。

「めっちゃ詳しいんですねー」まだ、雑にのり付けした敬語のメッキが剥がれることはない。

「実は前から調べてたんだ。やっぱ俺らだけでも試合したいよなって思っててさ。こいつも」と言いながら、副キャプテンの神谷先輩の方に体の中心を向ける。

「俺らにとっては最後の年だし、このままだと廃部になるかもしれなかったんだ。だから、たいしの 『セブンスすればいいじゃないですか』アレはマジナイス」

白い歯を見せながらそう言う。やっぱ段違いで神谷先輩はイケメンだ。

てか、名前覚えられてるじゃん‼︎

「っす」イケメンに褒められると誰だって照れる。

「よし‼︎そんなわけで、今日はあと、自己紹介して終わりにするか!」

パンと手を叩くと手についたチョークの粉が舞った。

理想のキャプテンって感じ。

「じゃあまず、俺から。キャプテンで三年の遠藤えんどう大助だいすけで、ポジションはSHスクラムハーフ。ポジション違うけどわからないことあったら言ってねー」

遠藤先輩がそう言い終わると、神谷先輩がはいっと手をあげた。

練習していたみたいにスムーズな動きで息ぴったりだ。

「まあなんとなく察してると思うけど、副キャプテンの神谷かみやまどかで、SOスタンドオフで、よろしく〜!」

まあそうなんだけど、俺のためだけに自己紹介してるからか、二人とも俺の方を見て喋ってるからかどことなく気まずい。

「えー次は、、、よし。ごういこう」

「っす。」

椅子が床を引く乾いた動きが教室に響く。湿気は少ないみたいだ。

剛先輩がくるりと右斜め後ろ、自分の方を向く。

「えー、二年の大久保おおくぼごうっす。ポジションはPRプロップっす。えーたぶん一緒のポジションなんで頑張りましょう。」

制服がピチピチだ。デカい。やっぱり元柔道部で間違いなさそうだな。角刈りだし。

剛先輩が右に座っていた人を小突くと、その先輩がすぐ立ち上がってこっちを向いた。

HOフッカー白石しらいし悠馬ゆうまです。お願いします。」

冷静そう。という第一印象だ。いやほんとに。ゲームだと水か氷属性だし、なんとなくキックやパスは上手そうだなって。あと立ち上がる時フッとミントっぽいいい匂いがした。

周りをキョロキョロと見渡し、自分が先輩たちの中で最後だと察してたのか、立ち上がった。

WTBウィング高村たかむらりょうです。よろしくお願いします。」ウィングと言えばをそのまま実写化したような感じ。細くて足が早そう。

よし。じゃあ最後に。と振られ立ち上がる。

一番後ろに座っていたから、全員を見渡せる。

「中学の頃はロックかプロップやってました。佐藤さとう太志たいしです。

よろしくお願いします‼︎」と机に頭をぶつけにいく勢いで礼をする。

持ち前の笑顔と元気で締める。

ああやばい青春してるなぁって感じ。

叫び出さないようにセーブセーブ。

「自己紹介も終わったことだし、一番最近の大きな大会は、の全国大会の県予選だ!まだ六人だけど、全力で頑張ろう」と大助先輩が。

「えいえい」とハイな団先輩がそう言う。

「おー」

この感じ懐かしい。

「まだ試合できないからラグビーしたそうな子誘ってきてねーバイバイー」

お疲れ様ですーとみんなが帰っていく。

俺ら鍵やっとくからと大助先輩と団先輩が残った。

六月十三日か。思ったより、短いな。

教室からは綺麗なオレンジ色の夕焼けが見える。

拳をグッと握った。




「詳しいですね。だって。そりゃそうだよなぁ。」

「ちょうど三年前か。」

「そうだな俺らで学校見学行ってからだもんな」

「俺ら二人が落ちて、円輝かずきだけが受かったしね」

「ほんとマジ申し訳ない。しかも言い出したの俺らだしな」

「公立高校は受かっちゃったら変えれないもんね」

「あそこ、七人制ラグビー最強なんだよな」

「確か、全国出場常連校じゃない?」

「円輝元気してるっけ」

「前ストーリー上げてたよね。ラーメンの」

「あ。そうやん」

「そろそろ帰るか」

「運が良ければ、同じブロックかもね」

「ああ」

夕暮れはいつだって残酷に時の流れを残酷にも突きつけてくる。

その一瞬の色や雲の形に惚れ込んでも、次、目に入るのは全く別の色や形の夕暮れだからだ。

綺麗な黄昏が夜と混じり、紫色になっていた。

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