君を殺す本~余命少女と出来損ないの小説家~
さとさん
まえがき
この小説は必ずバッドエンドで終わる。
不治の病を患った少女は、最後に死んでしまう。
奇跡も魔法も、ここにはなかった。
彼女の死を見届け、この物語を書き終えた僕が言うのだから間違いない。
そして——少女が生涯を賭して果たそうとした願いを、僕は踏みにじった。
彼女は何も果たせず、死んでしまったのだ。
だからこの小説は、必ずバッドエンドで幕を閉じる。
これは少女がヒロインになるための小説だった。
物書きとして才能のなかった僕に、彼女は自分の物語を書くよう依頼した。
病に苦しむ姿、次第に身体が動かなくなる様子、そして死ぬ瞬間までを——。
それは今完成し、君の目に映っている。
この小説は現実の時系列通りに進む。
ページを捲るたびに彼女の病状は悪化し、最後には死ぬ。
現実と同じように。
もし君がこれ以上ページを捲らなければ、ヒロインは生き続ける。
読むのをやめれば、現実で死んだ彼女を救える。
裏を返せば、最後まで読み進めれば現実と同じ結末が待っているということだ。
これは警告だ。君は、その結末を見届ける覚悟があるのか?
いくら文字の上の話だとしても、人を殺す気持ちの良いものではないはずだ。
どうか引くか進むか、自分の意思で選んで欲しい。
そして―――僕の所為にはしないでほしい。
僕は警告をした。
だからもし読後に不快な思いをしても、文句は言わないでほしい。
それでも読んでくれると言うのなら作者冥利に尽きるというものだ。
これから始まるのは、僕と彼女の、すでに終わった青春の話。
そして紛れもない、僕たちの体験談だ。
気の利いたオチも、人生の教訓も保証できない。
ただ一つだけ保証できるのは——
僕はこの小説を明確な殺意をもって書き上げ、人間として生きることをやめたということだ。
この小説は、一人の少女を犠牲にして完成する。
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