第51話
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」
マイクを通して聞こえてくるのは、花巻の声。
周りを見れば各課から集められた(生贄として差し出された)社員たちが、PCやタブレットで資料を見ている。
今日は採用説明会のお手伝いに駆り出される社員向けの説明会だ。
名簿一覧を見ていると、俺と鳴宮の割り当ては設営に場内での案内、説明会来場者との対談、撤収となっている。
いやいや多いって……最初から最後までずっといなきゃじゃねぇか。
あいつ、同期だからって俺たちを使い潰す気満々だな?
『私たち、いいように使われすぎじゃない?』
そんなことを考えていると、遠くに座っている鳴宮からチャットが飛んできた。
あいつも名簿を見たんだろう。
『これは完全にやってる。全力抗議の構え』
メモを取るふりをして返信する。
『抗議しても変わんなさそ〜人足りてないって言ってたもんね』
まぁ実際そうなんだろう。
せっかく人員を一人増やすなら、朝から終わりまでみっちり使わないと意味がない。
出張扱いだから交通費も会社持ちだし、なるべく効率よくいきたいのだろう。
というか対談ってなんだ対談って。俺がこの会社に入る時はそんなもんなかったぞ。
ぐだぐだとチャットで話しているうちにも、花巻の説明は進んでいく。
「……ということで、設営いただく皆様については直行でお願いします。なお、自家用車で来られた方については駐車場代を支給しますので、レシート等をなくさないようお気をつけください」
やっぱりそうか。
コインパーキングとかだと都心だと結構かかるから助かるんだよな。
『車OKらしいよ、頼んだ!』
『帰り飲めないじゃねぇか』
『確かに〜!うーん……出先の居酒屋も気になるけど、家帰ってからにしましょ、ね?』
まぁ鳴宮を送ること自体には不満はないんだが。
同じ車に乗ってるところでも見られてみろ、一瞬でアウトだろ。
会社の人間的には俺たちは別々の人と結婚した新婚ってことになってるから、変な方向で騒がれても面倒だし……。
いっそ聞かれたら素直に鳴宮と夫婦だと答えるか?
そんな考えも、花巻の説明に打ち消されていく。
『あ、そうだ!』
設営の図面や当日の流れに目を通していると、何かを思いついたようなチャットが飛んできた。
PCさえ持ち込んでしまえば説明会の途中でも会話ができてしまう、なんて時代だ。
そのうち説明を聞いてないのがバレて怒られそうだ。
『明日お休み取ったのよ私!』
唐突な休暇報告。じゃあ明日は一日経理の方の仕事ができるな。
鳴宮も積極的に動いてくれるおかげで、企画の方の進捗は悪くないし。
計画的な有給消化は社畜の特権だ。余らせて結局消えるなんて、給料を捨てているのと同じだからな。
『どっか一人で行くのか?』
『特に予定はないんだけどね。今のペースだと持ち越しになりそうで』
『何とか消えないギリギリは取っときたいよな』
『そうなのよ〜たまには一日ごろごろするかな〜』
う、羨ましい……。一日十二時間以上寝て、痛くなった頭を抱えながら冷えたお茶を飲むやつ、最高なんだから。
不意に前方から視線を感じる。
恐る恐る顔を上げると、目や鼻を顔の中心にぎゅっと集めた花巻と目が合った。
ぱくぱくと彼女の口が動く……「イチャついてないで聞け」か。はい、すんませんでした。
なんでバレてんだ、というかイチャついてはないです。
『おい、花巻に怒られたぞ』
『え〜まさかそんな〜、今だってマイク持って喋ってるよ?しずくちゃん』
くそ、こいつに天誅とか下らねぇかな、俺の怒られ損じゃねぇか。
『それでね、明日お休みだから今日は夜更かししようと思うの』
今日は一緒に寝れなくてごめんねって話か?まるで新婚夫婦じゃないか。
『なんの宣言だ……俺は明日も普通に仕事だから早く寝るぞ』
気が付けば説明会も終わりを迎えようとしている。
チャットの返事は見ずに、俺はPCを閉じた。
会議室から出るところで、背中に軽い衝撃を覚える。
振り向けば、もちろんそこにいたのは鳴宮ひな。
「どーん!」
(おい、周りに人いるだろ)
(私たちのことなんて誰も見てないわよ)
小さな声で話しながらも、自然を装って廊下に出る。
どうして会社でこんなにコソコソしなきゃいけないんだ。
「いやまてよ、別に企画でタッグ組んでるのはみんな知ってるから普通に話せばいいのか!」
まさに青天の霹靂。
「ちょっと、突然大きな声出さないで、びっくりするじゃない」
「悪い悪い。んで、どうしたんだ突然」
「さっきの返信見てなかったから直接誘いに来たの!」
ふふっと嬉しそうに彼女は笑う。
「今日はお酒とか買って帰って、一緒に映画見ましょ!」
◎◎◎
こんにちは、七転です。
実は体調を崩してしまいまして……あと本格的に仕事が繁忙期に入るので、更新頻度が落ちます!すまん!
また10月2週目くらいからは、モリモリ書こうと思います。
ではまた!
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