第10話 風が吠えた

「風が吠えた」


熾火の揺らめきにこもる気配をメリヤがそっと口にした。

猫の耳がぴくりと震え、揺らいだ火が炉の奥で小さく音を立てる。夜の森の奥から、葉の擦れるざわめきが応えるように返ってきた。


ラカンが立ち上がり、牙をのぞかせて笑う。


「まってたぜぇ……で、どこを攻める?言えねぇなら、人より先にお前をぶん殴る」


虎の毛並みをもつバルズが、重い息を吐きながら目を細めた。


「……まだ何も見えていない。だが、風が吠えたなら話は別だ。行く場所はもう決めてある」


ラカンが満足そうに鼻を鳴らし、口角を吊り上げる。


「今、立つぜ」


バルズは炉の熾火を見やったまま、低く告げた。


「プレーンをもっていけ。森を抜けるには風を掴むのが一番だ。整備は済んでいる」


ラカンが大きく笑い、拳で自分の胸を叩く。


「結局お前も、待ってたんだろ!」


バルズは顔を上げ、虎の瞳が炎を映したまま、低く響かせた。


「……吠えたのは、風だけじゃない」


ラカンは笑いながら背を向け、外の闇を指差した。


「用を足したらすぐ出発だ!」

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