第2話 見えざる目的

リードルシュ城──古よりアエメル湾の風を受けるこの城塞は、今や魔族の侵攻に備えた防衛の要となっていた。城の北の塔では、ザルク将軍が豪快に肉を喰らい、赤ワインの杯を傾けていた。窓の外では、兵たちが剣を振り、鍛冶場からは槌音が響いている。


「しかしあいつはいったいなんだったんだ!」


皿に残った骨を卓に投げ捨て、ザルクは憮然と吠えた。


「魔族でしょ」


ミレニアは巻き髪をかきあげ、飛び散った脂に眉をひそめた。


「そんなことはわかってる、目的だよ、やつの目的だ」


ザルクは椅子にもたれ、指で天井を指した。


「あれから一ヶ月、なんの動きもねえ。砦を落として、それで終わりってか?」


沈黙が落ちた。

食卓の片隅、軍師ユトが指先で盤上の駒を動かしながらぽつりと呟いた。


「砦以外のなにか・・・」


「そんなわけねー。あいつは、用は済んだと言ったんだ」


ザルクが言い返す。だが、声にはかすかな揺れがあった。その揺れを、ユトは見逃さない。

ミレニアはちらとザルクを見た。


「このガサツ男、ユトさまに意見するなんて……」


内心で舌打ちしながらも、彼女は言葉を飲み込む。

ユトは盤上を見つめたまま、静かに言った。


「戻りましょう、王都へ」


「はぁ?聞いてなかったのかよオイ!正気か?」


ザルクが顔を上げて声を荒らげた。

ミレニアはザルクに一瞥をくれ、静かにため息をついた。


「たしかに、ここにいても始まりません。他国の動きも気になります」


ユトの目が細められる。心の中で静かに思う。──ザルクは感のいい男だ。この違和感に気づいているからこそ苛立っている。ここに来るまで可能性の一つだったが、やつを見て確信した。

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