第23話 シーザー暗号、紀元前46年

 俺たちは海岸の家に戻った。なるべく人目を避けたが、血まみれの服を来た馬に乗った女三人と、俺の馬の後ろに乗せた同じく血まみれのエミーを見て、沿道の奴らは驚いていた。


 家に着いて、四人を浴場に行かせた。血を洗い流して、服を着替えた四人が俺の書斎に来た。


「さあ、何があったか、説明してもらおう」と聞いた。

「ビーフジャーキーを作ろうと思って、香辛料を買いにソフィアとジュリア、アイリスと市場に行ったのよ。そうしたら、路地で頭をぶん殴られて、ズタ袋をかぶせさせられて、あの海賊船に連れて行かれたの。甲板の柱に縛りつけられて。そうしたら、アイリスが縄抜けして、私たちの縄を解いたの。後は旦那様のご覧になったとおりです」とエミーが説明する。これは絶対にエミーだろう?絵美のはずがない。


「まあ、四人とも無事で良かった。これは他言無用、みんなピティアスと手下がお前らを救出するためにやったことだとしておく。俺の家族がこんなじゃじゃ馬で凶暴だと思われちゃかなわん。俺の奴隷商売に影響する。この家の奴らにもそう説明するんだぞ」と命じた。四人ともウンウンうなずく。こいつら、何人殺したんだ?十数人以上殺したのか?海賊どもの方こそ災難だよ。


 ソフィアとジュリアは下がらした。エミーとアイリスを残す。


「まったく、お前らは」と言うと、エミーが「これは正当防衛です!」と抗議した。「これは正当防衛とは言わん。過剰防衛だ!全員、殺すこともないだろう?」


「いえ、ムラー、殺るか殺られるかの瀬戸際で、手加減なんかできないでしょう?」とエミー。

「エミー、絵美は?」

「私が逆上して、絵美が引っ込んでしまって、今は意識を閉ざしてます」

「やれやれ。アイリス、お前、縄抜けなんてきるのか?」


「ちょっと念動力で縄を緩めました」

「それで、俺は見たぞ。お前、海賊の額に手をあてて何をした?」

「マイクロ波を投射して、電子レンジの中みたいにして、脳をグチャグチャにしてやりましたが、いけなかったかしら?」と無邪気な顔をして言う。


「お前ら、テレパシーぐらい使えるだろう?海賊共の意識をのっとって、コントロールくらいできるじゃないか?何も、殺さなくてもいいだろう?」

「そんな知性体の力は絵美ができるんであって、私はできませんよ、ムラー。私が得意なのは、ツーハンドの手斧。ないから、半月刀で首をちょん切りました。何が悪いんですか?絵美は戦線離脱しちまうし。彼女が怯えなければよかったのよ!」

「やれやれ」

「私も、とっさに念動力を使ってしまいました。テレパシーのことは忘れちゃいました」とアイリスが舌を出した。


「あのな、ソフィアとジュリアも見ているんだぞ。お前らの能力を、口止めしているとは言え、ソフィアとジュリアにも見せるんじゃない。そんな能力は半神だと勘違いしている絵美だけが使えると思わせておけ」

「私たちは被害者よ!」とエミー。

「わかった、わかった。エミー、絵美はまだ引きこもりか?」

「頭をコツコツ叩いているんだけど・・・あ、出てきた。交代する?」

「交代しろ!」


 彼女の表情が変わった。絵美になった。


「・・・ああ、怖かったよぉ~、ムラー」と気弱に言う。インドの阿修羅のようなコーカサス娘と20世紀の女性がかわりばんこに出てくるのに、俺はまだ全然慣れない。やれやれ。

「絵美、キミもだね、こういうのに慣れないと。エジプトに行って、戦争するんだぞ!暴力場面で、引きこもられちゃあ困るぜ」

「どうしましょう?」

「訓練だ。キミはエミーの手斧とか習え!エミーには念動力とか教えろ!同じ体で、得意技が違っちゃ困る。そうだな、屠殺場にもで通って、血に慣れろよ」

「野蛮だわ!」

「この世界は野蛮なんだよ。20世紀じゃないんだ」


「アイリスも知性体の能力の加減を訓練しろ。見境なく、敵の脳みそを焼き尽くすな!」

「だって、私は不完全体の知性体プローブですもの」

「お前も元はこの世界の女の子だから、エミーと一緒で凶暴性がある。お前も訓練しろ。そういう加減は絵美に習え。絵美の方が文明人だぞ」

「ハァイ」とアイリスが不貞腐れる。

「不貞腐れるな。まったく、ベッドじゃ、あれほどしおらしいのにな」

「あれとこれとは別です!」

「まあ、いい」


「ムラー、あなた、それはそうとピティアスが戻ってきてるじゃありませんか?」と絵美。

「そうだ。お前らが買い物出た後、訪ねてきた。今日の早朝、航海から戻ってきたんだ」

「暗号鍵のパピルス文書は?」


「ああ、これだ」と俺は書斎の机の引き出しから、パピルス文書を取り出して、彼女らの前に広げた。「元の文書は、シーザー暗号を使っていたんだ」

「シーザー暗号??」


「そうだ。シーザー暗号。単一換字式暗号の一種なんだ」

「たんいつかんじしき?」と絵美。

「平文の各文字を辞書順で何文字分かずらして暗号文にするという単純な暗号だ。つまり、A、B、C、D、E、Fを二文字ずらしたら、原文のA、B、C、D、E、FがC、D、E、F、G、Hに置き換えられる」

「単純すぎるわ」

「いや、それで、象形文字だが・・・」

「これ、本当に象形文字なの?神殿なんかの壁に書いてあるのと違うけど?」


「それは神聖文字だよ。だけど、神殿の壁に刻むなら神聖文字でいいが、普段の生活で使う、例えば、領収書とかを恐れ多くて神聖文字なんて使えない。書くのにも読むのにも日が暮れてしまう。いちいち、ハゲタカの文字とか蛇の文字とか書いてらんないだろう?だから、日本語の漢字を草書体みたいに崩して書いたように、象形文字、ヒエログリフを崩したデモティック、つまり民衆文字が使われたんだ。この文書は、プトレマイオス朝で使われていた中期デモティックだろうな。それで、無作為にデモティック文字をアルファベット26文字と、数字10文字に割り当てている。だから、象形文字の意味を考えても無駄なわけだ。さらに、この暗号鍵の文書によると、文節ごとにシーザー暗号のずらす文字数が違う」

「わけがわからないわけだわ」

「そう。それで、この暗号を解読したら・・・」

「したら?」


「ギザの大ピラミッド、クフ王のピラミッドは、エジプトのギザに建設されたピラミッドだ。古代エジプトの第四王朝(紀元前2500年頃)の王、クフの墓とされる。その横のピラミッドがクフ王の息子のカフラー王のピラミッドで、その正面の参道の先は、大スフィンクスが建っている。20世紀では、第四王朝カフラーの命により、彼のピラミッドと共に作られたとされているが、ウソばっかだ。たぶん、紀元前八千年以上前に建設されたんだろう」


 この書物によると、大スフィンクスの最後部から952ケト、南南東176.5度の方向に進んだ場所にもうひとつの大スフィンクスがある。その大スフィンクスの前脚の間を降りよとある。3つの呪いがあるのだそうだが、それを乗り越えよ、さすれば行き着かん、と書いてあるんだ。


「1ケトは52.4メートルだから、952ケトは49.885キロメートルだ。176.5度は、最後部を基点として、0度は真北だから、176.5度ははほぼ真南だ」


「ムラー、大スフィンクスって、二体あるの?」

「日本の神社の狛犬だって、二体だろう?」

「そうだけど。じゃあ、なぜ、一体の大スフィンクスが、もう一体と50キロも離れた場所にあるのよ?」

「それは俺は知らない。そもそも、大スフィンクスが紀元前八千年以上前、大ピラミッドが建設される5500年も前に存在したこと自体が謎だ。建造時期は知っているが、俺のプローブのデータバンクにはなぜどうして一体が50キロ離れた場所にあるかの知識はない。本体なら知っているだろうが。クレオパトラにでも聞いてみるか?聞く前に殺されそうだがな」

 

「う~ん、じゃあ、『大スフィンクスの前脚の間を降りよ』というのは?そこはなんなの?3つの呪いって何?RPGゲームじゃないんだからね!」

「パピルス文書はそのことには触れていない。降りてどこへ行くのか、呪いの詳しい内容は書いてないんだ」

「どうも気が進まないな」

「行ってみて調べてみる他ないだろ?」

「出たとこ勝負なの?」

「そういうことだ。二週間後くらいにでかけよう。ピティアスの船でアレキサンドリアまで行く。まずは、アイリスが言っているエジプトの武器庫を襲撃する。そこで、高性能爆薬やレーザー銃、携帯式レールガンの銃、火薬を使った銃を入手する。爆薬もあるだろう。プラスチック爆弾があれば申し分ないが」

「襲撃するこちらの武器が紀元前のものでは分が悪いわね」

「急に未来の最新式の武器なんて作れないからな」

「男性は半月刀、ソフィアは鞭、ジュリアは弓、アイリスは吹き矢、エミーは手斧。これじゃあねえ」

「俺とお前とアイリスの念動力とテレパシーもあるだろう?特に絵美の力はエミーの能力で強化される。だから、殺戮に慣れないと。戦闘の最中に引きこもられたら、エミーまで死んじまう。ソフィアとジュリアに言っておくから、明日から訓練だ!」

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