第6話

 翌日、学校への道で前を歩いている綾音を見つけて一誠は駆け寄った。


「上屋」


 綾音は一誠の姿を確認すると眩しい笑顔を向けて挨拶してくれた。


「おはようございます」


 良かった。いつも通りだ。とホッとしながら挨拶を返すと一誠は謝らなければとひと呼吸したら綾音が口火を切った。


「あの、先輩?昨日は遅くまで電話してしまってごめんなさい」


 綾音の言葉に一誠は慌てた。どう考えても悪いのは母さんだ。時間だってそんなに遅くなかった。8時くらいだったんだから。


「いや!謝るのは俺の方で……」

「じゃあ、お互い様ってことでこの話は終わりにしましょう」


 綾音はにっこりと微笑んで会話を終わらせてしまった。一誠にはわかっていた。綾音なりに気を使ってくれているのだ。確かに今の状況の自分の家の事を話すのは気が引ける。だから助かったのだが……。一誠は綾音に申し訳なさを感じて黙ってしまった。

 丁度門まで来たところで一誠は足を止めた。それに気づいた綾音が一誠を見上げて問いかけた。


「先輩?どうしたんですか?」


 目の前には昔、自分と母を捨てた人物が立っていた。疲れ切った表情をして服もくたびれていた。でも小さい頃しか会っていなかったのにすぐに誰だかわかった。リビングに写真がいまだに置かれていたから。


「父さん……」


 綾音が不思議そうに父さんを見ていたが説明する心の余裕は無かった。すると父さんは少し微笑みながら話しかけてきた。


「久しぶりだな、一誠……大きくなったな……」


 しかし、一誠は何て答えていいのか分からずただ何も言わずに立っていた──。

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