あかりテラス
樹葉いろは
辿り着いた場所で
いくつもの地を歩いた。
いくつもの暮らしを見た。
またここでも出会うだろう。
「日が暮れる。今日はここで夜を明かそう。」
周りを木々に囲まれ、開けた絶壁で男は野宿の準備を始める。
薪を集め、火をおこし、近くに見つけた清流の水を火に掛ける。
陽は沈む頃、空は茜色に染められている。もうすぐ、黒い塗料がしみてくるだろう。
男は空をキャンパスの様に例え、時を感じる。
自然の中で見えるものは、人の中では見えなくなってしまうことがある。
ルール。取り決め。約束事・・・
言葉は様々だが人と人との成り立ちに追われるからだろう。
キャンプの準備が終わり、予備の薪を探しに近くを歩く。
とてもアウトドアをする格好ではない。
ワイシャツにベスト、ズボンは頑丈な布のスラックス。
男は先程造った背負子を背負うとさらにその場に合わない姿になった。
薪を拾い始めてから、数分で薪は集められた。
最後の一本を拾い上げ、背負子に結び付ける。
「夜になるよ。あなたは帰らないの?」
男は声の方を向く。
目の前には長い髪を結い、涼しげな瞳をした女が立っていた。
彼女は動いやすそうなパンツにパーカー姿だった。
両手をお腹のポケットに入れて男を見ている。
「燎(かがりび)の地で野宿をするわけにはいかないでしょ?」
「私も帰りたくないな。あそこにいれば、婚姻の話ばかり。」
「帰る場所があるなら、帰った方がいい。私はここで身を隠す。明日はそちらに伺うが、永住の予定はありません。」
「旅人なの?」
「ただの流れ者です。行った先で次の仕事を貰って生活している。」
「私の街にはどんな用?」
「あなたには関係の無いことです。失礼。」
男を会話を切り上げ、キャンプへ戻る。
男の後を女はついてくる。
「ついて来ても、何もありませんよ。」
「別にいい。私は時間が欲しい。」
空には星が出ていた。
もう今から燎へ戻らせるのも危険なことだ。
男は諦め戻っていく。
「今日は何が食べたい?」
女の突然の質問に男は驚いて言い返してしまった。
「あるものしかありません!」
話さないでいようと思っていたが無理なようだ。
「着いたら食材見せて、私これでも花嫁修業中よ!」
女は男の強い口調など気にしていなかった。
「私は不知火(しらぬい)。燎へは土地の取引へ向かいます。」
「不知火さんか。私は朱莉(あかり)。よろしくね。」
朱莉は黙って不知火の後を着いて行く。
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