マ王転生
しょうわな人
第1話 気がつけば王様
『何だよ、
『だから煩ぇって! 俺はまだ眠いんだよ! 昨日も夜中、いや早朝三時まで残業してやっと始発に乗って自宅のボロアパートに帰ってきて寝たトコなんだよ!!』
「…… 王様、マ王様! その、どうか裁決を…… マ王様!!」
そう心の中で思っていても起こそうとする声が止む事がない。満邑は遂にキレて怒鳴ってしまう。
「
「ヒッ! ヒィィーッ!! ど、どうかお許しを! お慈悲を!! ですが、このヒト族の者を裁いていただかねば、この者の治めていた国の者たちの今後に関わりますので!!」
心底から怖いと思われているような声音でそう言われて思わず閉じていた目を開けてみたら、そこにはこれまで見たことが無い景色が広がっていた。
『うん? 何だ、何だ、ここ何処だ? ドッキリか? 会社の後輩たちが俺にドッキリを仕掛けて来てるのか? 俺が爆睡してる間に何があったんだ? なんか俺だけ一段も二段も高い場所に居るようだが…… 下の方で縛られてプルプル震えてるちっさいオッサンは誰だ? それに俺の視界の隅で頭を下げてる人は誰だ?』
まるで心当たりのない光景にさっきまであった眠気はすっ飛んでいき、目の前の状況を何とか把握しようとしている満邑。その時、視界の隅で頭を下げてた人が満邑に震える声で話しかけてきた。
「あ、あのマ王様、それでこの者の処罰はいかがいたしましょうか?」
怖がられているなと満邑は思って質問には答えずに更に思案する。
『そもそも俺の名前は
その時にふと満邑は気がついた。もう片方の視界の隅に銀ピカに輝く甲冑を着た者たちが十人ほど控えている事に。そして、その甲冑に映る自分の姿に……
『えっ!? 何これ? アレが俺? 俺なのか? 何か変な仮面を被って毒々しいまでのローブに黒光りしてる王冠みたいなのを頭に被ってるけど? えっ!? ホントにこれが俺?』
信じられずに思わず自分の右手を挙げてみると甲冑に映る者も鏡合わせで手を挙げた……
『イヤイヤイヤイヤ! 何だコレ!! ドッキリにしては仰々し過ぎるだろ!!』
混乱していた満邑であったが、満邑が挙げた右手を見てさっきまで怯えていた人が厳かな声を出して喋りだした。
「判決は下った! マ王様の裁決は神の裁決! ヒト族の国【イサヨ】を治めていた愚王であるロクデ・ナーシ・イサヨは断首の刑に処される事に決定した! 異議ある者はこの場で述べよ!!」
「異議なし!!!」
「満場一致で異議なしである! 衛兵、さっそくロクデを連れて刑を執行せよ! そして、ロクデ処刑後に【イサヨ】はマ王様の直轄地となる事を民に告げるのだ!」
「ハハッ!! マ王様の英断に栄えあれ!!」
「これにて本日の裁決は終了とする! 皆のもの御前より退出するのだ!」
「マ王様の叡智に栄えあれ!!」
「マ王様の知略に栄えあれ!!」
「マ王様の統治に栄えあれ!!」
その場にいた者たちがそう言って満邑に敬礼をしてから部屋を出ていった。全員が(甲冑を着た者たちも含め)出ていった後に視界の隅にいる人が満邑に向かって話しかけてくる。
「マ王様、ご英断であらせられました。これでイサヨの民もマ王様に心酔する事でございましょう。それと、先にお話していた通りロクデの身内の者どもは揃って鉱山送りと致しました。ただ、一人だけ、その、身内ではあるのですがロクデの一族からロクデナシと言われていた少女がおりまして、その、私の一存ではございますがその者は鉱山送りとしておりません…… その、勝手に決めてしまい申し訳ございませんが、その少女は教育が済みましたらマ王様の侍女としてお仕えする事になります。よろしいでしょうか?」
問われて満邑は自分が右手を挙げた所為で人を一人、処刑する事になったので脳内パニックを起こしている頭で考える……
『いや、そんな事をいきなり言われても! 何も知らずに勝手に人を処刑しちゃったんだがっ!! 良いのか、それ! 俺ってただのサラリーマンでマオウ様じゃないのだが!!』
「ダ、ダメでございますよね!! はい、分かりました、あの者も直ぐに鉱山送りと致しますです、ハイッ!!」
なかなか返事をしない満邑を見て怒っていると勘違いした人がそんな事を言い出したので慌てて満邑は言った。
「ちょっと待て! 先ずはその少女を見せてくれ」
「マ王様、言葉遣いが普段と違うようですが…… そう言えば先ほど怒鳴られた時も違っていたようですが……」
などと言われて『ギクッ!』と思ってしまう満邑だったが、
「いつから俺に疑問を持つほど偉くなったのだ?」
少し
『まさか偽物だったとバレたりしたら俺も処刑だなんて言われるかも知れないからな…… ここはどうやらドッキリじゃなさそうだし、様子見しよう……』
そう考えた時である。激しい頭痛が満邑を襲った。そして、記憶の奔流が始まる……
『グッ、グワーッ! い、痛ぇーっ、割れる、ドタマが割れるーっ!!!』
流れ込んでくる記憶は満邑の最後の時とこの身体のこれまで生きてきた記憶である。
「ぜハァっ、ぜハァっ!! な、何とかもったが…… 俺、死んだんだな…… しかも転生したのか…… この世界の絶対的支配者であるマ族の王、マ王に…… しかし普通は転生って言ったら神様とかが事前に出てきて説明とかあるんじゃないのか? いきなりかよ! この身体の記憶が長すぎて死ぬかと思ったじゃないか!!」
記憶の奔流が終わり、収まった頭痛。周りを気にしながら小声でブツブツ言っていたら扉をノックする音が聞こえたので、流れてきた記憶通りに返事をする満邑。
「良い、入れ」
「しっ、失礼いたします、マ王様! この者がロクデの身内ではありますが、一族から迫害されていた少女にございます!!」
先ほど直ぐに連れてくると言って出ていった人、マ族を統べるマ王の宰相であるクレヒトが年の頃十二歳ぐらいの少女を連れて部屋に入ってきた。
少女の目は死んでいる。何をされても動じないという感じになっていた。
『あ〜…… この目は知ってるな…… あの子とおんなじだ』
あの子とは前世で親に放置されていた子供で、隣の部屋に住んでいた満邑が色々と手助けしてやり、高校卒業後にちゃんと就職して初任給でお礼だと言って高いウィスキーを贈ってくれた子だ。
初めて会った時にその子も今の目の前の少女と同じ目をしていたのだ。
「クレヒト、その者は今から余に仕える事とする」
「は、はい! マ王様、畏まりました!!」
宰相はそう言うと部屋、玉座の間を出ていった。一人取り残された少女はそのまま真っすぐに満邑を見つめているが、瞳は死んだままである。
「名は何という?」
「ありません……」
「ならば余がつけよう。そなたはこれよりサクラだ、良いな」
「はい、私は今からサクラと名乗ります」
「うむ、ならばサクラよ。ついて参れ」
「はい、マ王様」
こうして、気づけば王様という立場に転生した満邑は瞳の死んだ少女サクラを連れて自室へと戻ったのだった。
内心では……
『ど、どうしよう、これから……』
と動揺しまくっていたのだが、仮面のお陰でサクラにも、自室に戻る時に出会った使用人たちにも気づかれる事は無かった。
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