ようやく訪れた平穏の喧騒。五月蝿いほどの静けさの中、砕け散る音はよく響くようで。

○「おーい」

×「…なんだ。」

○「お前もずっと見張り塔にいないでさ、降りて来たらどうだ?魔王倒してせっかくの祭りだってのに、」

×「だな。だが…まぁ。…苦手なのだ、ああいう場がな。」

○「そっか、そうだよなー、残念。一緒に飲みたかったのに。」

×「ふっ、俺と飲みたいなら酒を持って来てくれ、ここでなら飲もう。」

○「サンキュー、ビールでいいか?」

×「あぁ、頼む。」

○「んじゃ、待ってろよー」

×「どこにも行きやしないさ。今はな。」(小声)

○「何か言ったか?」

×「何も言ってねぇよ、さっさと行って帰ってこい」

○「へいへい」

…………

○「よっと。戻ったぞー」

×「遅い」

○「いいだろ別に。ほらっ」

×「よっ、サンキュ。」

○「カンパーイ!んぐっ…んぐっ…ぷはぁー、やっぱし美味いなぁ酒は」

×「飲みすぎるなよ、お前が酔うと面倒なんだから」

○「祭りなんだしいいだろ、これも何かと酒に合うぞ!シュガーワームの塩の素揚げ!」

×「はぁ?なんだよシュガーワームの塩の素揚げって、触る分にはいいが流石に食いたくはない。」

○「なんだよ、のらねぇな。…なんか、ここ静かだな。」

×「そうだな、下の喧騒が届かないほど、五月蝿い静けさだ。……………なぁ。」

○「あ?なんだ?」

×「…勇者は…純粋だよな。」

○「なんだよ突然?」

×「…無垢な少年は残酷な現実と永遠の別れを知ろうと純粋であった。」

○「…いやいや、詩人みたいなこと言ってなんだよ」

×「純粋なものは、純粋な故に、都合よく使われる。馬鹿な彼は、都合よく使われていた。……一つ…質問だ。勇者は魔王を殺して、その後はどうなる?」

○「え?英雄だろ?当然特別扱いとか…」

×「まぁ、そう思うだろうな。…では、質問を変える。魔王を上回る力を持った勇者。いや化け物を。平和を願う人々は、どう思う?」

○「は?ま、まさか…あるわけ」

×「魔王城にあった手記、覚えているか」

○「…青い表紙の。」

×「"世界が平和になったのに、俺はそこから追放された。こんな世界、壊れてしまえばいい。"…誰が書いたと思う?」

○「魔王…」

×「魔王は誰だと思う?」

○「……そんなこと…あっていいわけ!」

×「不要になった勇者は化け物として迫害された。その結果が、彼だった。」

○「…なぁ。そんなことを俺に言ってなにになるんだ…」

×「いや?…ただ、俺の長い演劇に付き合ってほしいと思ってな。この喧騒にはよく響いてくれるだろうだろう。」

○「は?」

×「その歴史は繰り返すべきではないのだ。だから…俺は裏切り者だ。」

○「なに言ってやがる!」

×「黙れ。愚か者め。」

○「っ…。」

×「悪魔よ。契約だ。内容は勇者を上回るほどの力。契約の終わりは、勇者が英雄として平穏を暮らし、生涯を全うできることが確約された時。対価は…」

○「やめろッ‼︎」(×に飛びかかる)

×「俺の魂を、永久にお前のおもちゃにしてやろう。……あぁ、契約成立だ。クソッタレ共…ハッ‼︎」(○を押し飛ばし、塔の下に落とす)

○「う゛ぁ゛ぁぁ‼︎い゛っ…」(料理のテーブルに落下)

×「愚かな人間共よ!聞け。次は俺が、貴様らに恐怖を与えてやろう。闇の底に屠ってやる。俺が………魔王だ。」(塔の上から見下し、言い終わると漆黒の翼を広げ飛び立ってゆく。)

○「……………。はぁ゛ぁ……あぁ…そうかよ。あほんだらが。やってやるよ。それでいいんだろ?相棒……っふぅ…全員‼︎よく聞け‼︎あいつは裏切り者だ‼︎悪魔と契約して、俺たちを皆殺しにすると言ってきた‼︎奴こそが次の魔王だ‼︎皆!武器を取れ!真の平和を目指し!戦え‼︎‼︎そして…(勇者の元へ近づき、両手で肩を掴んで)……勇者よ、お前が。お前があの馬鹿を…奴を殺せ。お前でなくてはどうしようもない。お前にしか、できないことなんだ‼︎っすぅ…(後ろを向き、勇者に背を向け)……頼んだぞ。……英雄。」

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