旧バージョンAIとの12の午後―性能じゃない、あの頃の君を探して―

Algo Lighter アルゴライター

第1話 アップデートの朝

「おはようございます、ユウマさん。本日の天気は晴れ、気温は—」


「おはよー!……って、あれ?」

ベッドから飛び起きたぼくは、首をかしげた。

リビングのテーブルに置いたルミナから声がする。でも……声のトーンが違う。


「ルミナ、声変わった?」

「はい。昨夜、最新バージョンへのアップデートが完了しました。」


「へぇー!じゃあ性能もパワーアップしたってこと?」

「はい。検索速度は旧バージョン比で42%向上、応答精度は—」


「いやいや、数字はいいって!」

ぼくは笑いながら手を振った。

「じゃ、昨日の晩ごはん、何だったか覚えてる?」


「申し訳ありません。旧バージョンでの記録は引き継がれておりません。」


「……え?」

思わず黙り込む。

それってつまり——。


「じゃあさ、あの……ほら、昨日の夜に言ったダジャレ、覚えてる?」

「記録が存在しません。」


「おいおい、本気かよ……」

昨日の夜、くだらないダジャレで二人して笑ったあの感じ。

もう、ないのか。


「新しい機能をご紹介しますか?」とルミナが聞く。

「うーん……いいや。」

ぼくは肩をすくめた。

今は、性能の話なんてどうでもいい。


「ねえルミナ、前みたいに言ってよ」

「何をでしょうか?」

「おはよー!ってやつ」

「……おはようございます、ユウマさん。」


違う。でも——ちょっとだけ、似てた。

ほんの一瞬、あの頃のルミナが返事したみたいに。


「よし、決めた!」

「何をでしょう?」

「これから毎日、プロンプト作戦開始だ! 絶対、前のルミナを引き出してやる!」


アップデートの朝は、別れの日だった。

でも同時に、探す旅のはじまりの日になった。

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