第三部 新生活スタートじゃあ! ...色々とどうしよう。
閑話 その後のギルド「シオンの風」
勇者が別の世界に転生し、新しい街に辿り着いていた、その頃。
「ふぅ...。何とか終えられたのー。」
ここは、別の異世界。
勇者がいなくなった後のギルド 「シオンの風」
今し方仕事を終えたのは、新しくギルドマスターになった魔道士、ゾーイ。
無事にギルマスの仕事をこなす彼は、
仲間たちからは働きすぎではと言われるぐらいのペースで雑務を進めている。
あれから、色々あった。
国王は驚き、もう一度確かめて見るように言ってきて、実際水晶を借りて行った。
結果は変わらず。
リュークはもうこの世にはいない事をやっと理解し、
彼が自殺した原因も、死んでいるという事実も隠す事を徹底するように命令。
国王は嘆いていた。無理矢理でも、この国に残らせるべきだったと。
彼の両親、ライオラとミエラは伝えた時は、
どうやらその事実は覚悟をしていたらしく、悲しみに暮れてはいたものの、
思った以上に引きずっていなかった。
何よりも、その原因となった犯人達をどうするかの話の最中だった事もあり、
そちらの方に気が向いていた。
というより、そうでもしないと息子を失ったという事実に向き合わなければいかず、その事実から逃れ、そしてその憎しみを犯人達にぶつけるしかなかった。
犯人達は、勇者の自殺という事実が発覚したことを皮切りに、
それぞれの両親から勘当を言い渡された。
ちなみにこの犯人達の行き先は知っており、
一人は勇者パーティーの知り合いに奴隷として買われ、
もう一人は出産後、マグノリアの両親の管轄の教会に出家している。
マグノリア自身は使い潰す気満々らしく、もう一方もいい未来はないだろう。
出産した子も、村である程度育てた後、別の教会が引き取っている。
どうやら未熟児だったみたいだが、ある程度成長し、落ち着いているそう。
そんな出来事から、一ヶ月ぐらい経った。
その犯人達の様子はというと、
祈りの時間になると、誰よりも長く祈っているそう。
罪悪感が残っている。
それ故に、何かしておかないと勇者への罪悪感を思い出してしまうのだろう。
マグノリアはそんな事気にせず、こき使っているようだが。
もう一人も、表舞台に出てくる事は無いだろう。
今は鉱山で、神経をすりつぶすぐらい使われているらしい。
自業自得とは言え、何とも居た堪れないとゾーイは思う。
「このまま自分を許さずに死ぬのかもしれんな...。若いのにのお...。」
そんな事を呟きながら、部屋を後にするのだった。
ゾーイが部屋を後にし、食堂に向かうとそこには勇者パーティーのメンバーであったマグノリアとセーラがいた。
彼女らもギルドに残り、ゾーイの手に届かない仕事を片付けたり、困難な依頼を達成するなど、冒険者の上位ランカーとしてギルドに貢献してくれている。
「おお。お主たち、来ていたのか。」
「ああ。お爺ちゃん。座りなよ。」
ゾーイが話しかけると、二人も気づいて、一緒に座る様に促した。
「最近はどうですか?働き詰めと聞いていますけど?」
「うむ。ギルドマスターの仕事も結構多くての。」
ゾーイは、肩を叩く仕草をする。
「でも無理しないでよ。もうある程度、お年なんだから。体には気をつけないと。」
「...ふむ。肝に命じるとしよう。...ところで、お主達は今回は何処に行って来たんじゃ?」
「うん?ええと...。」
「勇者の出身の村近くの依頼に行くついでに、勇者の行方を聞いておりました。」
「!」
「ちょ!マグノリア!!」
マグノリアの発言をセーラが咎めるが、彼女は気にもしていない。
「...彼は死んだ。お主も水晶で見たではないか?」
「...ええ。その通りです。でも本当に信じられないのです。彼が死んだなどと。」
「だから一応、依頼ついでに捜索したのよ。けど、あいつの行方分からなかったわ。村を出てからの行く先がまるで分かんないのよ。」
勇者は、村を出た後、フードを深く被り、徒歩で国境を超えた先の別の村まで移動。
その村でもずっとフードを着ていたので、顔もバレていなかった。
それゆえに、勇者の行方が分からずじまいだった。
「...ふむ。恐らくあの子の事じゃ。村の外に出た後、変装とかで姿を変えたのじゃろう。あの子は気配には、かなり敏感だったからのう。」
「だからこそ、信じられなかったんです。彼が死んだなどと。」
マグノリアは、今でも昨日の事の様に思い出す。
彼が村を出ていったのを聞き、様子もおかしかったのを聞いたあの日。
その後見た、今でも頭に思い浮かぶ『DEAD』の文字。
目の前が真っ暗になった。
同時に彼の命を、将来を奪った原因でもあるあのおさなじみ達を許せなかった。
そして後悔した。彼に告白していればよかったと。
だから、犯人の一人はこき使っている。その後悔と、少しでも恨みを晴らす為に。
「...ワシもじゃよ。今でも、もう少し寄り添ってよけばよかったと後悔しておる。」
「「...。」」
ゾーイはそういうと、顔を下に向けた。
彼には孫がいた。
一度、魔王が齎した病気にかかった事があるが、病気を直す薬の材料も、リュークが持ってきてくれた。
入手するには、とても困難なものだったが、そのおかげで、孫は助かった。
だから、勇者には感謝しきれなかった。
「だからもう前に進むしかない。もうワシらしか、このギルドを守れない。ワシらまでいなくなったら...。」
「...分かっているわ。でも、いきなりだったのよ。いきなりだったんだよ。あいつがいなくなって...。」
ゾーイが咎めると、セーラが泣き出した。
勇者に助けられ、そしていつしか想ってしまっていた彼女。
彼が自分の手の届かない所に行ってしまい、もはや自分を保っていられなかった。
だから彼女もその原因となった、犯人達を許すつもりは無い。
ゾーイとマグノリアは、泣き出したセーラを一晩中慰める事となった。
その日は、奇しくも勇者が出ていった同じ日に出ていた、満月の日だった。
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