閑話 勇者の抜けたギルド (他人視点)
時は、テルマサが別の世界に転生し、とある世界に別れを告げた所まで遡る。
とある世界、元勇者が抜けた後の王国での事。
元勇者が、かつて所属していたギルドがある。
そのギルドの一室には、勇者を除いた勇者パーティー全員が集まっていた。
その日になぜ集まったかというと、
本当は、故郷に帰った勇者が抜けた後の、ギルドの運営について話すためだった。
けれどその議題を後回しにしても、
解決しないといけない緊急の議題が生じた。
それは、「
「信じられない!」
女性の大きな声が聞こえる。
「なんで、彼が出て行く事態になっているのよ!」
「その上、出て行った理由に浮気とはのう。幼なじみ達には、失望した。」
魔法使いの姿をした、髭の長い老人が頭をかかえる。
この老人は、魔法学者としてこの世界にその名をしめた男、ゾーイ。
王国の最強と呼ばれた宮廷魔導師で、国王の頼みで勇者パーティーに加入。
勇者パーティーの一員で、パーティーのご意見番でまとめ役を担っており、
ギルドの設立にも大きく関わった。
因みに、リュークを、孫のように可愛がっていた。
「本当になんなの!?その幼なじみどもは!いえクズよ!今すぐ消しに行こうかしら...。」
爪を噛みながら、ゾーイの次に声を荒げたのは、
勇者パーティーで斥候を務めていた女の義賊、セーラ。
彼女は、リュークに命の危機を救われ、その恩義に報いたいとパーティーに加入。
以来、彼の分からない所で、彼に仇なす者を消してきた。
普段は冷静沈着な彼女が、ひどく怒るのは、すごく珍しかった。
しかもこの女はリュークに恋をしていたものの、
おさなじみとの約束を守る事を宣言していた彼の為に、身を引いた。
それ故に、憤慨しているのもある。
「まったくだな、セーラ。その時は、俺も手を貸すぞ。」
肩幅が広く、身を緑色の鎧に身を包んだ男が口を開く。
勇者パーティーの盾役(タンク役)だった、ゲルマン。
この男は、リュークが冒険者時代から苦楽を共にしてきた者で、
リュークと共に、彼に誘われる形で、勇者パーティーに加わった。
長い間、彼の事をよく知る人物である。
その為、おさなじみの事はよく聞かされていた。
「リュークは大丈夫なのでしょうか?」
今度は、青い長髪の女が、口を開く。彼女は、マグノリア。
彼女は神官でもあり、勇者パーティーの回復役でもあった。
元々は、国王からの命令によりパーティーに加わったが、
勇者の優しさに触れ、いつしか彼女も恋心を抱いていた。
教義や家柄の故に、結ばれる事はなかったが。
「うむ。わからんな。あの方は、いつも行き先をきちんと伝えていてくれていたからな。よっぽど、ショックだったのだろうな...。」
二つの剣をこさえた女は、ヒメカという剣術使い。
王国から遠く離れた、東の国から来た女性剣士で、
身なりも母国の伝統衣装である「袴」を着用している。
彼女もまた、リュークに命を救われた者であり、恋心を抱いていた。
だが彼女もセーラ同様、
おさなじみとの約束を守る事を宣言していた彼の為に、身を引いた。
勇者パーティーは、勇者リューク、盾役のゲルマン、剣士のヒメカ、魔法使いのゾーイ、斥候のセーラ、そして神官のマグノリアの六人。
前衛がゲルマン、ヒメカ。中衛がリューク、セーラ。後衛にマグノリア、ゾーイというパーティー構成だった。
「まあ、皆落ち着け。」
ゾーイが、全員を諌める。
そしてそのまま、全員の顔を見て話し始める。
「今回の問題は、残念ながらそちらではない。リュークがどこに行ってしまったのかという事じゃ。お前たちが憤慨するのも分かる。儂じゃって同じじゃ。」
ゾーイが手を震わせながら、言う。
恐らく、彼も怒っているが、現実を見ないといけない為、我慢しているのだろう。
「それに、儂らが怒ってももうどうしようもない。もう当人たちは、罪を償い始めておるからの。」
そもそもなぜリュークがいなくなった事を知っているのかというと、
リュークの両親が原因だった。
リュークの両親は、名を馳せた元冒険者。
父親は、剣士として、母親は、魔導師として実力があった。
実はゾーイも元々冒険者をしており、彼らとは旧知の中で、
今でも、手紙で連絡を取り合っている。
その上、リュークと一緒だった時も、いつも手紙で彼の様子を伝えていた。
それゆえに、彼らから届いた手紙で、知り得たのだった。
その為、おさなじみが贖罪を始めた事もすでに知っていた。
一方はすでに村の監獄に投獄した後、追放し、奴隷に。
もう一方も、毎日監視付きの生活を送っているらしい。
今後、どうするかの話し合いもしているそうだ。
「...確かに。さっきヒメカも言っていたけど。
こういう場合、大概リュークは私たちに行き先を言ってくれていたわね。」
リュークは、基本的に真面目で、他人にも気を遣える男だったリューク。
それは、パーティー全員の相談に乗るほどで、本来、周囲の役割でもあったが、彼が進んでやってくれていた。
そんな優しさに満ちた彼が、誰にも行き先を言わずに姿を消した。
「彼は頭のいい方でしたから、他国からの干渉を考えると、気楽に他国に行ったとは考えられませんね。」
「その上、国王のどんな提案にも呑まなかったお方だ。王国内に残っているのも、考えにくい。」
「まあまずは、身分を偽り、他国に逃亡だろうな。」
「彼の故郷の位置から考えると、それが妥当かもね。」
リュークの故郷の村は、王国領ではあるものの、隣の国とも近い国境沿いにある。
リュークが娘を助けた村もその隣の国の領土に属し、普通の人だったら、盗賊やモンスターが跋扈する森を通って逃げるのは難しいが、勇者だったらそれが可能だろう。
むしろ、多くのモンスターや賊を伸してる。
「まあ十中八九、生きてはいるじゃろう。じゃが、儂は...。」
そう言った、ゾーイが喉を詰まらす。
「?...おじいちゃん?どうしたの?」
「ゾーイ様?」
セーラとマグノリアが、ゾーイの顔を覗き込む。
ゲルマン、ヒメカも、黙る彼に注目する。
ゾーイは、重い口を開いた。
「もしリュークが、…彼が、既にこの世界からいなくなっていたら、お主たちはどう思う?」
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