第5話 女神同士のいざこざ

俺は、女神に森の入り口に転移させられた後、

行方が分からなくなっていた女の子を、村に送り届けた。


女の子の父親、そして村人全員にとても感謝され、

村人総出で持て成したいと言われたが、

女神の話がとても気になり、それ何処じゃないので、遠慮させてもらった。


ちなみに娘さんの父親は、村長の息子であり、

娘が村長の病気の為に、わざわざ薬の材料を森まで採取しに行っていたという。

おじいちゃん思いのいい子だな。

けれど今後は、誰か護衛を付けるように言いつけておいた。

流石に、狼も出る森に今後一人でいかせるのは、危険だからね。


彼女が目覚め、体に問題がない事を確認した後、俺はもう一度森に向かった。




再び森にたどり着いた俺は、入り口から入ろうとすると、

一瞬何処かに飛ばされる感覚が生じ、そしていつの間にかあの女神の泉に居た。


「...確かに、。」


「そう言う事です。」


そう述べると女神が、俺の目の前に現れる。


「それでも急に飛ばすのは無いんじゃないですか?」

「ああっ、すみません...。けれど思った以上に早く来たので...。」


まあこんなに早く来たら驚くか。

なにせあれから数時間しか経っていないもんな。

けれどこの女神、どこかたどたどしいな...。

しかも、自信がなさげのようにも見える。

まあ俺に対する罪悪感がある様子から見て、反省の色があるのはまだいい事だ。


「...さて、それじゃあ話してもらいましょうか?色々と、詳しくね。」

「その前に、ちょっと移動してもいいですか?」


そういうと女神は、杖を取り出し、魔力を込めようとする。

おいおい。またいきなり転移しようとするのか?

この人も何気に非常識なんじゃないのか。ああ、けれどこの人神様だった。

でもそれでも、何処に飛ばされるかわかったもんじゃないな...。


俺が訝しげにいると、女神はそれに気づき、慌てて口を開く。


「ああっ!そうですよね...。いきなり、また飛ばされても困りますよね。

大丈夫です。移動する先は、神々の世界にある私の空間です。

そこだったら、誰にも邪魔されないですし。」


真剣な眼差しで、こちらを見ている。

どうやら嘘ではないようだ。


「...はあ。分かりました。それじゃあ連れて行ってください。

その神の世界とやらに。」


そう言うと、女神様はパッと笑顔になった。


「ありがとうございます!それじゃあ行きましょう!」


女神様はそう言うと、杖を振った。

そして振ったかと思った瞬間、突然光が生じ、扉が出て来た。

よく見ると、その先に空間があるように見える。


俺が驚いていると、女神様が俺の手を取り、無理矢理引っ張っていく。

こいつ、一体何を考えているんだ?


「神様って、本当に非常識...。」


そう呟きながら、俺は神々の世界に連れていかれるのだった。




気がつくと、俺は水面の上に立っていた。

ウユニ塩湖や逆さ富士の河口湖みたいに、空を湖面に映し出している。

見渡す限り、その空間が広がっており、

何処まで行っても、際限がないように感じさせる程、広がっている。

故郷にもある光景とはいえ、本当に神様の世界に来たのかと思わせる空間だった。


「やっと話せますね。机と椅子を出しましょう。」


そう言うと女神は、

魔法で白いガーデニングテーブルと二脚のチェアをだし、俺に座るように促した。


俺が座ると、テーブルの上に白いティーカップが二つ現れ、

中には紅茶が入っていた。

アップルルイボスティーだろうか。りんごの香りがして、俺好みだ。

俺が軽く紅茶を飲むと、アーリシアは話し始めた。


「...実は貴方を召喚しなくても、あの世界の者だけでもやれました。

ですが、それだとかなりの被害が出て、あの世界の多くの人が亡くなっていました。世界のバランスも崩壊し、世界の存続自体が危ぶまれていたんです...。

本当にありがとうございました。」


アーリシアは改めて、俺に頭を下げ、感謝の言葉を述べた。


「お気になさらず。俺は生きるためにしないといけなかったので。」


あの世界での俺は、

どちらにせよ村から独立して、冒険者としてしか生きていけなかったからなあ。

魔王討伐が始まる当時も、モンスターがあらゆる所で増えていたし。

いずれ魔王を倒す戦力として、駆り出されるのも時間の問題だった。

しかも俺にとって、あの戦いで、あの世界に家族にも、多くの仲間にも恵まれたのも事実だったし。

まあ、あのクズども幼じみどものせいで、

今後どうしようか悩むはめになったけど。


「まあ、今更かよと言いたいけれど、感謝も一応あるんですよ。

改めて人として、大切なものも理解できたし。」


「...早くに気づかず、申し訳ありません。」

アーリシアが、改めて謝る。


「...謝まれても遅いですよ。なので、もう今後に目を向けましょう。

そっちの方が、互いにプラスですよ。」

笑顔で、俺は彼女に語りかける。


そう、今更謝られても遅い。けれど、いつまでも過去にとらわれてはダメだ。

こういうのは、「」を決めるのが重要である。


前世で勤めていた会社でも、他社との取引にミスが生じた場合、

特に今後どのようにしていくかを話していく事もあった。


取引をしてくれなくなった会社もいれば、

お互いに尊重し、関係を続けてくれた会社もあった。


信頼は、一度崩れてしまうと中々戻らない。

だからこそ、今度は裏切らないようにするのが大切だと、俺は思っている。


「...ありがとうございます。テルマサさん。あなたは、器が大きいのですね。」


女神は、紅茶に口をつけながら、申し訳なさそうにそう言った。


「いや、大きくはないですよ。一応、今回の件はもう問い詰めないけど。

許せるかって言えば、そうじゃないですからね。今後のあなた次第ですよ。」


女神は、黙って頷く。

ある程度、話が落ち着いたので、

今度は、神同士の嫌がらせについて聞いてみる。


「それでさっきの話ですと、

俺に記憶がある状態で、目的を達成させるはずだった。

どうして嫌がらせとして、前の世界の管理者は邪魔をしてきたんです?」

「実は...」


邪魔してきた女神は、シットリーナといい、

名前にもあるように嫉妬とか人間の悪の感情を司る女神らしい。

そのままなのかよ。


そいつは、昔からアーリシアとは仲が悪く、

というより一方的にケチをつけてきたりするなど、

何かと噛み付いてきたらしい。


先ほど世界を崩壊させかけた際、世界の管理者の資格を失ったが、

これを譲渡するのが、アーリシアだと知ると、あれやこれやと癇癪を起こし、

終いには他の神の仲介によって、

やっとその資格を譲渡するほど、駄々を捏ねた。

しかも今回は自身の失敗を、アーリシアが拭う事にも最後まで反対しており、

最後の嫌がらせ、ここでいうと俺についても、

アーリシアが初めて世界の管理者になる死角をついて、邪魔してきたという。


ていうか、初めて世界を管理するタイミングだったのかよ。

因みに、決めたのは彼女たちの上司の神らしく、

何れにせよシットリーナが、反抗するのは無駄だったそうだ。


なんか、駄々っ子を相手しているような感覚だなあ。

と思っていると、なんとアーリシアとは所謂従兄弟という関係らしく、

介入してくれた神に、シットリーナの兄もいるらしい。

兄には逆らえないらしく、渋々従ったそうだ。

ていうか、って言い方、他にもいる言い方だよな..。


「私は大丈夫ですけど、その尻拭いする彼女の兄は疲れた顔をしていました...。

しかも今回、シットリーナが神の資格を失ったので、

彼や他の神に、さらに面倒が起こる事を思うと...。」


女神は、また苦笑いで、申し訳なさそうに話した。

なんというか、御愁傷様...。


「ええと...。まあそいつの話はやめて、話を戻しますけど、

前世の記憶がない状態とは言え、目的を達したのですが、

今後俺は、どうすればいいんですか?」


俺は冷や汗をかきながら、話を変えた。

そうすると、女神アーリシアは逆にこのように質問してきた。


「むしろあなたは何がしたいですか?」











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