第12話 気にいらない

 部屋の中央に長テーブルが置かれ、奥の窓側に助祭が、反対の手前側に子供たちが座っている。助祭はそれぞれの子供の学力の把握をせずに神の言葉の説明を行っているが、全ての子供たちが十分に理解できているようにはマティルデには感じられなかった。


 だから、マティルデは助祭の助手として、小さな子供たちの勉強を教えるようにカレンに言われるのでは? と恐れていたのだが、カレンは突如、助祭に予想外の依頼を申し出る。


「助祭様。年長の子供たちは別に勉強を進めてもよろしいでしょうか」

「ああ、構わないよ」


 助祭の許可をもらったカレンに連れられてマティルデは部屋の片隅に置かれた丸テーブルで向かい合って座る。


「弟も呼んでいいですか?」

「ええ、どうぞ」


 マティルデは弟のオイゲンを隣に座らせる。姉弟二人でプレッシャーをかけているつもりだったが、カレンは平然と、いや、むしろニコニコと笑みを浮かべている。


「何がそんなに楽しいのですか?」

「いえ、こうやって一度ゆっくりとお話をしてみたかったので」


 そうですか。とぶっきらぼうに答えそうになったマティルデは自分でも気づかないうちに感情的になっていたと反省をして奥歯を強く噛んで冷静さを取り戻そうとする。


「それで何の御用でしょう」


 マティルデはオイゲンの不用意な言葉に不満を抱きながらも、カレンのことをチラリとみる。


「お二人は歴史に詳しいのですか?」

「それほどでもありません。ですが、ここアンハルトが成立した時のことは父から聞いております」

「是非ともお聞きしたいですわ」

「はい。聞いた話ですが、以前はこの大陸を支配していた神聖大帝国に我々は従属されていましたが、今から三十年ほど、大陸同盟が神聖大帝国を打ち破ったことにより、三十五の君主国と四つの自由都市が独立を許されることになったのです。その君主国の中の一つが、我々、アンハルト国になります。その大戦争以降、我々が生まれてからはずっと平和です。本当にありがたいことです」

「詳しいのですねオイゲン君は」

「いえ、自分なんか姉に比べれば大したことはありません」


 マティルデは弟に話を振られるが反応しない。自分から情報をベラベラとカレンに出す気はなかった。それより、カレンが何をどこまで知っているかを先に知りたかった。だから、カレンに話しかけられたタイミングで話を誘導する。


「マティルデさんも歴史がお好きなのですか?」

「それほどでは。それより、先程、盗賊団の話をされていませんでした? もしかして、何か領主様からお話を伺われているのですの?」

「ええ、このアンハルトが狙われていると聞いています。大陸同盟の有力者である名主が背後に控えている盗賊団に」


 カレンの冷静だが重要な一言にマティルデは動揺を隠すのに必死になっていた。


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