恋愛? ご遠慮します!!

夏空蝉丸

第1話 ひっそりと生きたいだけです

 城田 花蓮かれんは恋愛に興味が無かった。過去に好きな人がいなかったわけでも、男性からモテなかったわけでもない。むしろ、その逆で、どちらかと言えばモテたタイプだった。


 もし、花蓮が陽キャでギャルで、自分の近くに集まってきた人たちと、ウェーイとはしゃいだりノリが良かったりするタイプであれば、その恵まれた容姿は彼女に幸せな人生を与えてくれていたはずだ。


 だが、花蓮はそんなタイプではなかった。頭が悪いわけではなかったが、考え込んでしまうタイプだった。相手の言葉に対して、幾つもの回答を用意して吟味してから言葉を発する。それが、他の人にどんくさいと思われた。学生時代は、なまじっか成績が良かったから、他の人に馬鹿にされているんじゃないか。見下されているんじゃないか。と疑いの目を向けられてきた。どうしてあんな女が男にモテるんだと恨まれた。彼女はそんな人生だった。


 花蓮は大学を卒業しOLになったが本質的な部分では変化していなかった。明確な暴力を受けたことは無いけど、仲間外れにされたり陰口を叩かれたりすることで、おどおどする癖がついていた。思ったことを素直に言えない性格になっていた。ただ、その代わりに人の内心を読もうとするのが習慣になっていた。自分が何をすれば安全になれるかを知っていた。


 だから花蓮は、机の上に、来るな。と書かれたメモ書きが置かれていたのを見て全てを察した。これは、同期会に来て欲しくない女性の意志だって。


 誰が犯人だ。とか調べる気も考える気もなかった。そもそも、同期会になんて行きたいとも思わなかった。会社の中で好きとか嫌いとか考えたくなかった。みんなで飲んでいるのを横で見ているのは嫌いではなかった。でも、自分自身が輪の中心にいたいとは思わなかった。そのことで、他の女性の恨みを買ったりなどは絶対にしたくはなかった。


 同期会の日は残業することにした。丁度、忙しい仕事があった。時計を見ないで書類の処理をしていたら夜の十時過ぎまで働いていた。ここまで仕事を進めてしまうと、逆に数日は仕事をしなくてもいいんじゃないか。そんなことを花蓮は考えながら退社をした。


 少しだけ不安があった。帰宅途中で同期に会いたくない。話しかけられたくない。なんでこなかったんだ? なんて質問されたくない。心臓が高まっていくのを感じながら、きっと、同期会のグループはもう終わって帰っているに違いない。電車なんて数分に一本来る。それなのに、待ち合わせもしないのに会う可能性なんて確率は相当低いはずだ。


 花蓮は駅のホームに立ち、自分に言い聞かせるようにしていると、聞き覚えがある声が耳に飛び込んできた。かん高くて騒がしくて近づきたくない声。


 スマートフォンをバッグから取り出してSNSを見ることにした。近づいてこないで。って願った。多分、同期の女子は無視するはず。そう彼女は予想したし、その予想は正しかった。通り過ぎていく女子たちの声を聞き流しながら胸を撫で下ろそうとした。その時、予想外の声が飛び込んできた。


「あれ、城田。どうしてここにいんの?」


 少しだけ腰をかがめて花蓮の顔を覗き込んでくるイケメン男子のことを彼女は無視することは不可能だった。



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