第13話 アマーテとの別れ

今日も船の修理をしている。


元々古い船だったのだが、星団気流に巻き込まれたり、この星の大気圏突入などなど、結構傷んでいる。


幸いにも十分な修理工具は揃っているし、火山地帯ということもあり、材料となる鉱石にも事欠かない。


複雑な計算式はナビが担当してくれるから、俺は修理に没頭出来るわけだ。




スサノーが死んでからアマーテの様子がおかしい。

これまでは熱心にドローンの映像を観ていたのに、最近はあまり観なくなったようだ。


俺が修理している間、ソファーに座ってじっとこちらを見ている。


彼女も既に70に届こうかという年齢で、俺達が初めて会った時にいたメンバーの、最後の1人となってしまった。


今集落にいるほとんどはアマーテがこの船に乗ってから生まれた者達で、今更集落に戻っても知った顔などほとんどないのだろう。


しわくちゃな顔を隠すような仕草が可愛いと思うのだが、彼女は見られることを極端に嫌がる。


そのくせ俺から離れようとはしない。


俺の見た目が出会った頃とほとんど変わらないせいだろうな。


この船は完全無菌状態なので病原菌皆無だ。


食べるものも栄養バランスを考えた食事となっており、そのあたりがアマーテの寿命を延ばしている要因だろう。


だが確実に老いは迫っている。


歯が抜けてきてからは、もっぱらサプリメントを流し込むようになったし、時折点滴をうっていることもある。


船の医療施設が、アマーテの寿命を延命しているとも言えた。


そんなある日のこと。


いつものようにソファーに腰掛けて俺の作業を見ているアマーテ。


にこっと笑いかけるとしわくちゃな顔を歪めて笑い返してくれる。


俺にとっても心休まる瞬間だ。

そんなことを今日何回していただろう。


ひと息ついたところでアマーテを見遣るとソファーに寝転ぶように倒れている。


近頃睡眠が多くなったようで、たまに見掛ける光景にふと笑みが溢れる。

いつものようにベッドへと運んでやろうとしたが、様子がおかしい。


慌てて診療室へと運ぶとナビに声を掛けた。


いや、分かってるんだ。


生気が無くなっているのだから。

身体が少し固くなっているのだから。

でも、顔にはいつもの笑顔をたたえたままの安らかな表情。


「ナビ、外へ埋めてあげよう」


アマーテを両手に抱えて出口へと向かう。


自動ドアが開きタラップが降りる。


そのまま外へ出てタラップを一段一段踏みしめながら降りていく。


あの火山噴火の日、恐る恐る俺に手を引かれてこのタラップを渡ったアマーテの顔が思い浮かぶ。


涙が出てきた。最初から分かっていたことだった。

寿命が違い過ぎるのだから。

たが、涙が止まらない。


タラップを降りきったところから少し小高い丘の上に開拓用小型重機ロボが穴を掘っている。


ナビに案内されるままそちらへと向かう。


薄く掘られた穴の中には既に棺が置かれていた。


棺にアマーテを寝かせる。手を合わせて目を瞑ると大粒の涙が溢れて止まらない。


「棺を閉じます。最後のお別れを」


ナビの声に目を開き、アマーテを見る。


やっぱり笑っている。彼女には笑顔が似合うなと思うとふと笑みが溢れた。


そうだ彼女はいつも俺に笑顔を向けてくれていた。


こんな見知らぬ地に1人の俺が寂しく無かったのは、彼女の笑顔がいつも隣にあったからだ。


「俺も笑顔で送ってやらないとな」


涙を拭いて笑顔を見せる。


「ナビ頼むよ」


「承知しました」


重機ロボが棺に蓋を乗せる。


手を合わせると重機ロボがゆっくりと土を掛け、少し山になるように盛り土をして墓標を建てた。


墓標には『アマーテここに眠る』と書かれていた……



その後、しばらくの間、俺が集落を映すドローン映像を観ることはなくなってしまった。








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