第28話 ローレンスの秘密と臨界に潜む影
芽依は会社の外で腕時計を見ながら、ため息をついた。
「なんで毎回毎回……合コンの日に限って本社に呼ばれるのかしら! もうっ!」
そのぼやきも一瞬。
頭の中はすぐに「どんな服で来てるかな」「二次会はどこだろう」でいっぱいになり、どぎまぎしながら本社へ向かう。
エントランスを抜けて廊下を歩く芽依。
視線は宙をさまよい、バッグの中をごそごそ――完全に合コンのことで頭がいっぱい。
その挙動は、社内の恒例ゲーム参加者そっくりだった。
「不審行動、確認」
警備ロボが反応し、芽依は「あ、ちょっと待っ――」と言う間もなく拘束される。
ドタッ、と転んでロボの上に倒れ込み、お尻を突き上げる格好に。
社員たちの視線が一斉に集まった。
「また芽依さんだよ」
クスクス笑いが広がる中、新人社員が小声で尋ねる。
「えっ、な、何なんですかこれ……?」
先輩社員が肩をすくめてニヤリ。
「知らないのか? ローレンスCEOの“秘密ファイル”を持ち出そうとすると、ミネルヴァがご褒美をくれるって噂があるんだ。
でも挙動がおかしいと、こうして捕まる。……芽依さんは、持ち出してなくても毎回こうなるんだよ」
「ち、違うってば〜っ!」
芽依は抗議するが、ロボにずるずる引きずられていく。
背後で社員たちは昼食を賭けて盛り上がっていた。
「今日は青か?」
「いや、ピンクに100円!」
常浜臨界研究区――茨城の海沿いに築かれた冷却炉心棟。
外から見ればただの老朽化した水処理施設だ。
だが厚さ二メートルを超える遮蔽壁の奥には、国家機密に等しい「密閉型プラズマ胞子」が格納されている。
重厚な配管が複雑に絡み合い、冷却水が一定のリズムで流れ落ちる。
その音は、心臓の鼓動のように響いていた。
「本日も異常なし。冷却水の流量、基準値を維持しています」
若い職員が端末に入力した数値を報告する。
「温度、圧力も安定しています」
もう一人が続き、静かな空間に業務報告の声が重なった。
所長・天ヶ瀬魁は端末に目を落とし、短く頷く。
白髪の混じる黒髪に眼鏡をかけた姿は、学者というより管理者に近い。
「よろしい。数字に乱れはないな」
それ以上の言葉はなく、職員たちは持ち場へ散っていく。
魁の眼差しは計器の向こう、遮蔽壁の奥を見透かすようだった。
ここは東京への送電とクロノブリッジのゲート安定を支える要。
わずかな不具合が都市全体を揺るがすことになる。
だが彼の口から不安の色が出ることはなく、日常業務が淡々と繰り返されていく。
その静けさを破るように、低く唸る警報音が施設全体を震わせた。
赤色灯が回転し、壁を染める光が脈打つ。
鉄の扉がきしみ、冷却水の匂いに混じって、どこか甘い薬品の香りが漂い始める。
足音。
硬質なブーツが床を叩く乾いた響き。
最初に現れたのは、鋭い眼差しの剣士――彩音。
刀身が赤光を反射し、警報の音を切り裂くように鳴った。
彼女は舌打ちし、吐き捨てるように言う。
「……ったく、手間かけさせやがって。次は一発で沈めてやるからな」
その後ろから、無邪気な笑顔で歩む影――まりか。
棘付きの鎖を振るたび、空気がざらりと震える。
焦げた金属の匂いが漂った。
そして最後に、まだ少年の面差しを残す喜朗。
握り締めた拳から火花が散り、灯りの明滅と重なって戦場を照らす。
三つの影が制御室を埋め尽くした瞬間、研究区は日常を失い――戦場へと姿を変えた。
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