悪霊はマジで退散しなさい!!!!

大地ノコ

悪霊マジ怖ーいマジ無理!

「ん? 吉江、なんか喋った?」

「いや、なんも。どったの?」

「え、いや、なんか、変な声が聞こえてきたからさ……」

「うわ怖。なんそれ怖」

「だよね……夜にこういう物音するのがいちばん怖い。無理無理、さっさと寝るわ」

「おう、気をつけなよ、おやすみ」

 私はそのまま、寝室へと逃げ込んだ。激安アパートということあってエアコンの効きは悪く、そろそろ布団からも異臭が立ち込め始めている。

「まじ? 私ここで寝るの……?」

「仕方ないじゃん。ここしか住めるところなかったんでしょ?」

 一人暮らしを始めた時は、とにかく金がなかった。お金の移動を事細かにまとめ始めた上でなお、金がなかった。

 結局、こんなボロボロ築『深』物件に住む羽目になってしまったのだ。この家賃でどうやって利益が出ているのだろう。考えたことは無い。

「でもそれ、あんたが悪くね? 中卒でいきなり就職するってんだし」

「だーかーら! あのクソ親父からさっさと逃げたかったんだし、これしかなかったの!」

「それで人生犠牲にすることもなかったでしょ」

「お互いさま。はい、おやすみ」

「怒んないでよ〜!」

 なんだかんだ、吉江とのルームシェアも気に入っているし、後悔はしていない。

 ……うそ、めっちゃしてる。暑いしじめつくし何より怖い!

「寝られるわけないだろ……」

 うんうんと唸ることでなにかが変わる訳もなく、ただただ不毛な時間が続く。明日も乙女にあるまじき重労働、寝られないと本格的にまずい。

「くそっ、最終兵器を取り出すしかないか……」

 今月の残り少ないギガ数を気にしながら取り出したのは、文明の板ことスマートフォン。その画面に光り輝くは、フォローしているASMR系インフルエンサーのアイコンの列。荘厳なそれらをニマニマしながら眺めると、不思議と心が落ち着き出した。

 どんなに辛い夜でも、ASMRを聞いておけば寝れる。これは私のとった統計学上100パーセントの制度で実証されている。

「ま、イヤホン持ってないから爆音垂れ流しなんだけどね」

 今日のお供にすべく動画が決まったところで、かけ布団を端によせ、敷布団と私とスマートフォンの三種の神器のみを部屋の中心に置いた。完璧なコンディション!

「それじゃあ今度こそ、おやすみなさい」

 ポチッと、動画の再生ボタンを押す。しかし、その瞬間、恐れていた事が起こってしまったのだ。

『楽園カードガーーール!!!!!!!!!』

「ぎゃあああああああああ!!!!!」

 反射で音量をゼロにするも、過去は変えられない。そう、クソデカ音量のクソデカ広告が流れたという事実は、二度と変えられない。

 絶対近所迷惑だった。絶対に怒られる。

 はっと、吉江のことを思い出し、起きていないか確かめる。

「吉江、起きてない……?」

 幸いなことに返事はなく、特段気にとめていないようだった。

「よかった……嫌われてなかったっぽい」

 なんとか頭が冷めて、心配や不安も落ち着いてくると、だんだん開き直ってくる自分もいるもので。

「ま、どうせ怒られるし! 寝よっかな」

 こうなってしまうのです。実際このまま寝なければ、職場の偉い人からも、近隣住民からも怒られてしまう。ならば、職場の人間関係を事前に補強しておこう。これが、できる女……。

「……あれ?」

 ふと、目を瞑ると、どこからかガサゴソと音が聞こえてくるような感覚がした。

 吉江では無い。それはさっき確認済みだ。だったら、今度こそ、本当に……。

「悪霊、来ちゃった……?」

 急に辺りは涼しくなり、しん、と空気の波が止まった。ね、寝られるわけが無いだろうこんな中で。

「だ、誰かいるんですかぁ……?」

 か細い声で、本当に近所迷惑になってしまわない程度の声で無の空間に呼びかける。

「今出てきてくれたら、痛くはしないので、だから、えっと……」

 死ぬかもしれないなら、せめて少し強がっておこう。最期のその時までビューティ、それがいい女だから……

「怖いよおおおおおおお」

 いや無理。生存本能強すぎ。

「誰かァァァ! いるなら出てきてぇぇぇ!!!」

「えっと……もしかして、私ですか?」

 またも悲鳴が溢れそうになる。絶対にするはずがないと思っていた声が聞こえてしまったからだ。

「あ……悪霊……出た……」

「悪霊? ぼ、僕がですか!?」

 どうやら、悪霊は自分が悪霊である自覚がないようだ。それはそれで怖い……

「って、あれ? この声、壁の向こうからする?」

「僕の声ですか? そりゃもちろんですよ。だってここ、アパートですよ?」

 あ、ということはもしかして……。

「もしかして……隣人さんですか?」

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