燃え尽きる花

また古参で集まる事になった。いつもの「ハナ」だ。

「サルビアを連れて来てくれ」と言われ、サルビアの住んでいる小さな家に行く。


家の外でサルビアと同居しているジローが外で掃除をしている。初めに言っておくと女の人だ。


「あぁベゴニアさん。サーちゃんですか?」


立ち上がるジローを見上げる。多分シライシより大きい。


「あぁ、まだ寝てるか?」


「いいえ、もう出かけてますよ」


相変わらず、動きは読めない。もっとも、動きを読める人間など居ないが。


「そうか。ホルンは元気か?」


「あの子はまだ寝てます。昨日もサーちゃんと一緒に武器の手入れをしてたんですよ?子供なのに凄いですよね。もう、お絵描きをしてた頃が懐かしいです。子供の成長は早いですね…」


ジローは少し寂しそうに家を見る。

ホルンも回収員だ。年齢は12歳だと聞いている。本来ならもちろんこんな仕事はさせられないが、志願して来たのと、才能を見込まれてサルビアについて回っている。


「多分ハナに行ったんじゃないですかね?ベゴニアさんも、ですよね?」


「あぁ、ありがとう」


手を振りその場を離れる。ジローは伸びをして掃除に戻る。



ハナに着くと既にサルビアが座っている。いつものように気怠げで椅子の片側に重心をかけてプラプラさせている。


「無駄足を踏ませたみたいだ。悪かったな」


代わりにジニアが僕に言う。僕も椅子に座る。


「気にしてないよ」


「改めて、おかえり」


「…あぁ、ただいま」


またこの席に全員が集まっている。素直に嬉しく思う。



「まずは僕から」


キキョウが手を上げて何枚か写真を出す。ギギの解剖結果だ。


「落人の籠で遭遇した特殊なケラ喰い。結論から言うと、こいつは寿命だったと見て良いと思う。消化器官の老化が以前の4本個体よりも顕著に見られた」


「…つまり、ケラ喰いは少なくとも老化するまでの期間この世界に存在していたということか?」


ジニアが問う。キキョウはメガネを直して続ける。


「その寿命サイクルの年数がとても短いと思われる。頭を誰かさんが吹っ飛ばしたから正確には言えないけど、2年から3年程しか生きていないと推測される」


「…その悪態は誰に似たんだか」


僕の愚痴に、キキョウはそのまま続ける。


「続いてそこ、ツユクサと思われる落書きについて」


他のみんなが姿勢を直す。


「これは皆の情報をまとめても現在探索しているエリアでは目撃情報が無い。恐らくはもっと北にある可能性が高い」


「あいつ、意外と行動派だもんね。あの時もそうだったし」


椅子を鳴らしながらサルビアが言う。あの時とは外縁15km探索の事だ。


「ふむ…では、北部への探索遠征を追加で視野に入れるべきということか」


「そうだね。でも、北は平野が多い、虫の驚異も計り知れないと思う」


「マジ!行きたい!!」


サルビアが立ち上がって手を上げる。マリーを見てアピールしている。


「俺は引き続き、ボーダーラインの調査を行う」


「僕はまだ、この特殊個体の解析がしたいかな」


2人の発言から自然に僕に視線が行く。


「えっと…任せるよ」


皆が主張し、マリーが仕切る。いつもの流れ。


「…では、ベゴニアとサルビアのチームで北部地域遠征。2人は引き続き、調査と解析をお願いします」


「やった!」

「了解だ」

「分かった」

「…うす」



「ベェ、ちょっと付き合ってよ」


作戦会議が終わりサルビアに声をかけられる。


「…何に?」


「武器調整。あんたハヅキちゃんの斧使ってるんでしょ?」


それがどうしたと言いたいが、この戦闘マニアのストイックな部分は、丁度見せたい人がいる。


「分かった、サルビアの家か?」


「もち。じゃあよろ〜」


サルビアはだらりと手を振り店を出る。



緊張しているカリンを横に先程の家に戻って来た。ノックをするとホルンが出てくる。


「……入って」


回収員の装備を付けているホルンを見て、カリンが驚く。


「え?あの子回収員なんですか?」


「そうだな。最年少だ」


「あの歳で…」


ドアを開けて中に入る。木製の机の上に装備が並べられている。

中型のコンパウンドボウ、投げナイフ、目を引くのは片手用の短銃が2丁。見たことない武器だ。


「それが話のか」


「そ、あれ?そんなチビ居たの?」


サルビアはデカい鉄板のような盾を弄っている。呼ばれたカリンがお辞儀をして名前を名乗る。


「俺の弟子だ」


「あれ?シライシ君は?」


「あれは相棒」


「ふーん」と言いカリンを見る。その目は何処か遠くを見るような、吸い込まれるような雰囲気を感じる。


「それ、自分でつけた名前?」


「えっと、親に着けて貰いました」


カリンの方では僕らのような文化は無かったらしい。それを聞いたサルビアは少し笑った。


「そっか。いい名前ね」


「サルビアさんも、いい名前だと思います」


カリンがそう返す。ジローが料理をしている暖炉の火を見ながらサルビアはまたぼんやりとする。


「でしょ?燃え尽きる花。ボクにピッタリ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る