亡国の王は星に永遠を誓う
北畠 逢希
プロローグ
北の覇者と呼ばれている大国・オヴリヴィオ帝国。誰もが恐れる現皇帝と皇后の間に皇女が誕生したのは、薄桃色の春の花が満開に咲いた日のことだった。
「──うわあ、なんて可愛いんだっ…!」
飛びつく勢いで、生まれたばかりの赤子の顔を覗き込んだのは、第一皇子であるシエルだ。父譲りの宝石のような青目をきらきらと輝かせながら、母・ルーチェの腕の中にいる赤子を見つめている。
「ねぇ、もうちょっと右に行ってくれない?」
「なんだよレオ、見たいのか」
「くだらないことを聞くなよ」
生まれたばかりの妹に会いに来ない兄がどこにいるんだ、と不機嫌に返したのは、第二皇子であるアルビレオだ。
アルビレオはシエルの隣に並ぶと、ふにゃりと顔を綻ばせた。
「……可愛い」
「ね、とっても可愛いよね。この子が僕たちの妹か」
シエルは生まれたばかりの妹の頬に触れ、アルビレオは小さな手に自分の小指を近づける。待ちに待った妹の誕生に喜ぶ二人の兄の姿を見て、両親は顔を見合わせて笑っていた。
「──ふたりとも、妹のことをよろしくね。優しいお兄ちゃんになってね」
「もちろんです、母上!」
シエルは間髪入れずに元気よく返事をすると、アルビレオの肩に腕を回し、にかっと笑った。
「──名前なのだが」
はしゃぐ兄弟を見守っていた父のヴィルジールが、ふわふわな綿毛のような赤子の髪に触れる。薄らと開かれた瞳は青く、ヴィルジールとシエルと同じ輝きを放っていた。
「──ステラ」
ヴィルジールは慣れた手つきで赤子を抱き上げると、囁くような声でそう呟いた。
「ステラ、ですか?」
聞き返したルーチェに、ヴィルジールは薄く微笑む。
「ああ。星という意味がある名を、この子に贈る」
「……素敵な名前」
ふんわりと笑顔をこぼしたルーチェは、ヴィルジールの腕の中にいるステラへと手を伸ばすと、滑らかな頬をひと撫でした。
──ステラ・リ・セレナ・オヴリヴィオ。
現皇帝・ヴィルジールと皇后・ルーチェとの間に生を受けたこの赤子は、夜空を瞬く星のように、誰かに光を届けられるような存在であって欲しいという願いを込めて、そう名付けられたのだった。
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