第44話 動き出すファンタジア

 駐屯地に戻ってから私達は死塚から付けられた傷の治療を受け終え、アルカトラズに起こった一部始終を来栖さん達に報告した。

 茜さんはすっごく悔しげに、いや機嫌が悪そうだった。


 

「くそがぁ! あんのボケ害悪集団どもが、体制が整ったらぶちのめしに行ったるさかい、覚えとれよ!」


『おぉこわいこわい。久々に茜のヤクザモードを見たわ。こればっかりはいつ見ても恐怖で身が竦むなぁ』


 

 と言ってはいるが竦むのは今の私の方だ。

 そんな茜さんの様子の傍で全く意に介さずに来栖さんは私たちからの報告を紙に書き写し柳先生と八重さんと共有していた。

 


「そんなことがあったのね〜。これはなかなか大変な事になってきたかもしれないわ」


「ええ。そうですね。ファンタジアの例の声明はこの計画を達成することを見越していたのかもしれません」


 

 例の声明? 柳先生が言ったそれが何なのか分からず私達は一同に首を傾げた。

 


「ああ。そういえば鈴芽さん達はアルカトラズに向かってる間でしたからね、知らないのも無理はないでしょう。こちらです」


 

 と言ってスマホを私たちに見せてきた。

 そこには一つの動画が再生されようとしている。

 タイトルは『政権交代!? これからの日本。ファンタジアによるウィザード至上主義国家に?』と書かれている。

 動画のダウンロードが終わったらしく画面が再生される。そこには一人のスーツ姿の壮年の男性が壇上に立っていた。


 

『我々ファンタジアはここに宣言する! 今の腐敗した国家を時代に合ったあるべき姿にするべくアビス解放などと戯言を抜かす事はなく共存の道を模索する! その為にウィザードによる人民の警護! そして教育! アビスの研究を推進するべく、自衛隊は日本国軍へ移行し、全ての女性国民を軍属にする事を決定した!』

 


 と、動画はここで途切れた。どうやら切り抜き動画であったらしく、ここから先も何か発言していたらしいがこの発言がいちばんの目玉なのだろう。


 

「以上、ファンタジア当主、厳重院昭弘による発表です」


「おいおいこれって大丈夫なのか? ただの野蛮な集団とかそう言う奴らの戯言にしか見えないんだが」


「雪也の言う通りね。まだ政権を握っているわけでもないのにもうリーダー気取り? どうかしてるわ」


 

 アリスも呆れたと鼻で笑った。

 その動画の下に書かれたコメント欄も二人と同じ意見で溢れかえっていたのだが――


 

「でも、同じタイミングでファンタジア構成員が最悪の囚人、奏凍死塚を脱獄させたわ」


「まさか今回の脱獄はこの発表を強引に進めるための――」


「基盤ってとこかしらね〜」


 

 となるとこれはただの公約の発表などではない。

 現政権への宣戦布告だ。

 『私たちの意見を聞き入れぬのなら武力を持って従わせる』という脅しだ。

 


「まずいじゃないですか!」


「ええ。まずいわね〜」


 

 私の焦りに反して来栖さんはどこか余裕だった。

彼女はカップに入った紅茶を優雅に啜ってはお茶菓子で置かれたクッキーをひと齧りした。


 

「来栖さん! どうしてそう構えてられるんですか! これは国家転覆を狙ったテロなんですよ!」


「まあまあ。鈴芽さん落ち着いて〜。今ここで焦ってもどうしようもないでしょ〜」


「来栖隊長の言う通りです。鈴芽さん。今は我々が動くときではありません」


「そうね。それに鈴芽ちゃん? 遅かれ早かれ次の命令が下されるはずだからそう躍起にならないで」


 

 先輩方にそう言われて私は大人しく席に着いた。

 


「鈴の気持ちも分かります。俺たちに何かできる事はないんですか?」


「って言っても雪也さんは退院でもなければただの学生ですからね〜。それにアリステラさんは日本国民ですらないですし〜」

 


 確かにそうだ。

 合宿を共にしただけで、お兄ちゃんもアリスも自衛隊に入隊したわけではない。

 それにアリスは所属する国家が違う。この自国のデリケートな問題に首を突っ込みでもしたら最悪国際問題に発展してしまうだろう。


 

「だからってこのままあの囚人をほったらかしになんて出来ないわ!」


「それも一理ある。だけど今は指示を待つ時よ。動くのはそれからでも遅くはない。その為に私たちには上官がいるし、防衛省もある。ここで勝手に動く事があればそれこそ国家を揺るがすテロリストに成り下がるのよ? 分かってる?」


「そ、それは……そうですが」

 


 お兄ちゃんとアリスの二人は何も返せなかった。

 この手の話は来栖さんの方が理解がある分、素人の私達では知り得ないことだ。

 


「でも今のうちにできることがあるのも事実やろ」


「あか――結由織先生!」


 

 ギロリと茜さんに睨まれて私はすぐに目を逸らす。

危うく本人の名前を呼んじゃうところだった。

 ここまで茜さんの人格が表に出ているからこそ、そう呼びかけてしまうのは仕方のないことでしょ?

 


「今のうちに出来ることって何があるん? 先生?」


「お。アカリ、よ〜聞いてくれたなぁ」


 

 ニヤニヤとアカリに見つめては私たちに顔を向ける。


 

「今のうちに出来ること。それはあんたらでチームを組んであの囚人をぶっ倒すことや!」


「「「「えええええ!!?」」」」

 


 茜さんの発言は度肝を抜かれた。茜さんを含めた私たちでも手も足も出なかった奴を、今度は私達だけで倒せと?

 あまりにも無謀だと思われるこの提案だが、だからと言ってこのままあの囚人を野放しにしておくことも出来ないと考えつつ、私達は国家問題に向き合っていく事になる。

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