第17章『神域への階』

祭壇から放たれた黒い鎖が、ガロウの体を瞬く間に縛り上げた。それは物理的な拘束ではなかった。彼の魂そのものを縛り付けるかのような、邪悪な呪いの鎖だった。

「ガロウ!?」

「くっ……!体が……動かん……!」

ガロウは、必死でもがき苦しむ。だが、鎖はびくともしない。それどころか、彼の魔力を吸い上げ、ますます強く輝き始めた。


「くそっ!離しやがれ!」

ボルガンが戦槌を鎖に叩きつけるが、キィン、と甲高い音を立てて弾かれるだけだった。

「だめですわ!私の魔法も……!」

ルーナの風の刃も、鎖に触れることなく霧散してしまう。

「これは、外からの攻撃を一切受け付けない……。呪いの本質は、もっと内側にあるんだ!」

カイは、【真理の瞳】でその呪いの正体を見抜いていた。


【誇りを試す古の呪い】。カイの瞳に、その文字が浮かび上がる。

(これは、ガロウ自身の心との戦いだ……!)

彼の瞳には、苦悶するガロウの周りに、過去の幻影が渦巻いているのが見えていた。守れなかった仲間、力及ばず敗れた強敵。彼のプライドを形成し、そして傷つけてきた記憶たち。

「ガロウ!しっかりしろ!」


「俺は……弱い……。結局、俺の力など、この程度だったのか……」

ガロウの瞳から、光が消えかけていた。呪いは、彼の最も触れられたくない弱さを、容赦なく抉り出していた。

「そんなことはない!」

カイは、力の限り叫んだ。

「君の強さは、力だけじゃないはずだ!僕に、それを教えてくれたのは、君自身じゃないか!」


「そうだぜ、狼の兄ちゃん!てめぇの牙は、そんなもんで終わりかよ!」

ボルガンが吼える。

「思い出してくださいまし、ガロウ!あなたがいたから、私たちはここまで来られたのですわ!」

ルーナの声が、涙に濡れる。仲間たちの声が、ガロウの閉ざされた心に届くことを、誰もが必死に願っていた。


(仲間……?そうだ、俺はもう、一人じゃない……)

ガロウの脳裏に、これまでの旅の記憶が蘇る。カイの示す理想、ルーナの優しさ、ボルガンの豪快さ。

「俺の強さは……俺一人のものじゃない……!」

ガロウの全身から、金色の闘気が溢れ出した。それは、ただの力ではない。仲間を守るという、強い意志が生み出した、「魂の強さ」だった。


「おおおおおおおっ!」

ガロウの咆哮と共に、彼を縛り付けていた呪いの鎖が、内側から弾けるように砕け散った。

「やった……!」

「ガハハ!さすがじゃねえか!」

仲間たちが、歓喜の声を上げる。ガロウは、ふらつきながらも、確かに自分の足で立っていた。そして、静かに祭壇へと歩み寄り、最後の「王の証」をその手に取った。


その瞬間、一行が持つ十二の「王の証」が、一斉に共鳴を始めた。遺跡全体が、凄まじい光と振動に包まれる。

「な、なんだ!?」

「遺跡が……姿を変えていく……!」

祭壇があった場所が裂け、天へと続く、光の階段が現れた。神の座す領域、「神域」への道が開かれたのだ。


「カイ殿!聞こえるか!」

その時、カイの持つエルフのブローチから、黎明の同盟の長老の声が響いた。

「我らの陽動は、今、始まった!神の軍勢は、我らが引き受ける!」

「長老様!」

「行け、勇者たちよ!この世界の未来は、お主たちに託したぞ!」

その通信を最後に、ブローチの光は消えた。


カイは、仲間たちの顔を見渡した。誰もが、覚悟を決めた目をしている。

「行こう。みんな」

彼の言葉に、三人は力強く頷いた。地上で戦う仲間たちの想いを背負い、カイたちパーティは、世界の運命を賭けた最終決戦の舞台へと、その一歩を踏み出した。光の階段の先には、偽りの神が待っている。

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