第8話 戦場を知らぬ者
「なんで助けてくれないの!」
「すまない、岡野殿。彼女なりに必死なのだ。だが、断る理由くらい聞いてもいいか?」
彼女を座り直させた勘兵が岡野に問うと、困った顔を浮かべながら口を開き始めた。
「儂らが赤鬼が率いる兵に勝てるとお思いですか?先の関ヶ原でも、鬼人のように暴れていた軍団なのですよ」
岡野がそう言って身震いをしていると、勘兵が少し違和感に気づいた。
「お主。あの戦場では、何方の家臣として参戦していたのか?」
「はあ?南にある山において戦っておりましたよ。儂は、毛利家の某かに雇われていたので」
「南宮山からは、井伊家の戦ぶりなど見ることは出来ませんぞ」
関ヶ原の南西にある「
しかし、戦が始まると秀元率いる軍団は、山から降りてこずに生還を決め込み、主たる戦場にならなかったのだ。
逆に
本来であれば、現在の広島藩主であり「賤ヶ岳七本槍」に数えられた猛将
彼は、自らのメンツと徳川優位の世にするために命令を無視して斬り込んでいき、
井伊家の家臣団は、大将たる直政の指揮に従って赤い竜巻の如く暴れ回り、西軍の
「確かに井伊の赤備えは化け物であった。だが、毛利の陣営からそれを把握するのは難しいであろう」
「それは・・・・」
言葉に詰まった岡野に勘兵は、鋭い目突きで核心を突く。
「お主、侍でないのであろう。おそらく、近隣の百姓であったのではないか?」
「申し訳ございません。儂は、美濃の百姓でしたが、一旗揚げたいとの思いから、鎧など一式を揃えたものの、戦がなかったので野盗に落ちた類いであろう」
「申し訳ございません!」
観念した岡野は、慌てて頭を下げる。
彼が言うには、元は山城の百姓であったが、槍働きによって名を挙げようと関ヶ原に赴いたが、着いた頃には戦が終わっており、途方に暮れていた。
しばらく鎧剥ぎや死体運びをしていると、周囲からの逃散民や落武者たちが集まりだしたことで組織化していったのである。
その後、雨風のしのげる拠点として近くの村人から教えてもらった、この砦を使い始めたということである。
「つまり、ここにいる者たちの多くは、戦の経験のない者たちなのだな」
「はい。儂も含めて戦場に出たこの無い者が大半であります」
織田信長と豊臣秀吉による「兵農分離」政策は、この頃になるとかなり浸透しており、天下統一と共に百姓が戦をする事が無くなっていったのである。
また、秀吉による「刀狩り」により、戦武具の多くが百姓屋から姿を消していったことで、武具の扱いが自衛からステータス程度になっていったのである。
「儂も含めた者たちは、塩田和尚の手ほどきを受けていたのでございます。なので実戦を経験しているのは数人程度かと」
「まぁ、そうでしょうな。そのような者たちが、井伊の赤備えに挑める訳もあるまいな。なら、何故お主らが彦根藩の所領を荒らしたのに討伐されてないのだ?」
「井伊家の者より頼まれたのでございます。なんでも、石田家の影響力を削ぐためだとかで」
岡野がそう告げると、今度は勘兵が苛立ちの表情を浮かべていた。
「井伊家の者共は、骨の髄まで石田家を使うつもりのようだな。何とも嬉しいことだよ」
岡野は、勘兵の苛立ち顔の理由が分からなかったものの、何かあったことを察して聞かなかった。
「奴らは、お前たちを統治の生贄として使うつもりなのだろう。井伊家は、一通りお前たちを暴れさせた後に、石田残党を討伐するという名目で軍を出すだろうよ」
「ちょっと待ってくれ。大垣藩なら分からなくもありませんが、彦根藩に攻められるいわれがないですぞ」
「そんな事は、井伊家にとっては関係ない事だ。何せお主らは、ただの野盗なのだからな」
「そなあな。儂らはどうすれば」
「拙者に問われても困る。こっちは、ただの浪人なのだから」
「そこを何とか頼むよ。儂みたいな百姓上がりの知恵では、乗り切ることなどできませんから」
辛そうな顔で訴える岡野に勘兵は、しばらく頭を掻いた後に、何か閃いたかのように笑みを浮かべた。
「・・・・一つ策があるのだが、乗るか?」
勘兵が考えた策を聞こうと岡野が近寄る。
勘兵たちが考える岡野の生き残り策とは一体?
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