青春する。青春だけかは未定。

角砂糖カウンター

プロローグ

 この学校の2年生には、名が知れた生徒が何故か多いという。


 あまりに強すぎる実力を持つがゆえに廃部寸前の剣道部を復興させた、黒髪にポニーテールの女の子とか。


 いつか女の子に刺される刺されると言われながらも無事に安息の地(個人の感想)に辿り着いたモテ男とか。本人にその自覚はなさそうだけど。


 才色兼備、清廉潔白の銘をほしいままにしている、クラスの大半の男子どころか学校大勢の男子が美少女だと認めてファンクラブが出来かけた子、だとか。


 ふと空を見る。まだ春先の暖かい空気に眠くなるななんて思いながら、屋上の柵に背中を預ける。西を見ても体調良さそうな空は雨予報なんて見なくてもしばらくの安泰は約束してくれそうだった。


 有名無実とは酷い言葉で、名が知れているからにはそのように振る舞わなければいけないというのは有名という評判が持つ面倒な側面だなぁと【有名人】である友人たちを憂いてみる。まぁ僕はごくごく普通の一般人なので人は寄ってこないし値踏みとかもされないのです。いいご身分。


 さて、ところで話は変わるのだけど、くだんの才色兼備、清廉潔白の美少女とやらが現在進行形で僕の膝の上に乗ったまま、ことんと寝ているのですが


 はてさてもしや僕もいわゆる【有名人】というのになるのでは?とか、


 穏やかに眠る猫のような女の子をみながらぼんやりと思ったり、思わなかったり。



 私立大海原わたのはら高等学校において、おおよその生徒は真面目で優秀ではあるのだが、自由すぎる校風がゆえ一部の学生は非常に不真面目と言われる。


 まぁ、僕のようなのは流石に変な部類なのかもしれないけど、僕は不良側の人間だ。


 今の時刻はだいたい3時間目が終わったくらい。僕は朝のHRホームルームが終わったあとからずっとこの学校の屋上にいる。


 決して勝手に立ち入ってここ屋上にいるわけではなく、この学校の屋上は全面柵張りの周りにさらに柵と網が張ってあり、飛び降りなんてしようとすればまず泥棒やスパイのような技術を先に鍛えなければいけないレベルである。普通に4階の窓から飛び降りたほうが早い。

 

 屋上の庭園は整理されておりテーブルのようなものも置いてあるので公認で休憩スペースとなっているのがこの学校においての屋上である。庭園を整えたり掃除をしたりするためにたまに人は立ち入るし、先生だって普通にここで休んでいたりする、そんな場所だ。


 だから僕が授業中にもかかわらず美少女の抱き枕になって屋上で暇を潰していても何の問題もない、そういうわけ。


まれに授業を放り投げてここまで来る奴ら仲間がいるんだけども、今日はどうやらいないらしい。眼下の校庭の向こう側を眺めれば壮々と並ぶ桜が見える。同時に咲いてるからソメイヨシノなのかな。


 …実はそういうわけでもないんだな、これが。(現実逃避から帰還した顔)


 駄目ですよ、駄目。普通に。どう考えても駄目なんですが、何より何が駄目かって、


「すーー、っ、すぅ、」


 目の前の女の子が私に寄りかかったまま寝たことなんですけどね。なんかたまに「ん、ぅ、っぅ」とか言っててかわいいけど。


 姫川 織。それが目の前の彼女の名前。姫、だとか織姫、だとか天の川だとか七夕のために生まれてきたのかと思うレベルの苗字名前ではあるけれど、残念ながら誕生日は7月5日。神様ももうちょっと融通してやりゃいいのにと思わざるを得ない。ベガこと座α星は夏の星空に見えるから良いのかもしれないけど。


 姫川、という苗字負けしそうなものを抱えておりながら名は体を表すというように清廉潔白で才色兼備。成績ではトップ10から外れたことはなく校外模試でも全国偏差をおおよそ65-70前後を安定感持って取るという賢さと、料理と裁縫が得意で娯楽がない古風な女の子なのかなと思いきやゲームも強かったりと何かとセンスがいい、いわゆるラノベのような完璧美少女であった。


 しかしビビりでそこがかわいいかったり、ぼーっとしていることもそこそこあり外を眺める顔が儚く、アンニュイな雰囲気を醸し出したりと、ちゃんと欠点らしき美点を持つところもまさしく完璧と言わなければいけないところであろうかと思ったり。


 サモトラケのニケやミロのヴィーナスがそうであるように、普通に完璧なのは怖いので。


 とはいえそんな全国優良生徒大会でもあれば王座に輝くであろう優良児に授業を欠席させて睡眠を貪らせているわたくし、というか僕。


 明らかに不良ですね後で生徒指導でボコボココース確定です本当にありがとうございました。


「まぁ、そこまでは行かないやろけどー、」


 この学校はあまりにも特殊な教育方針をとっているために、生徒が一人二人や四分の一くらい教室にいない程度気にしないであろう。僕なんて出る気が出たら出るというような感じなので、もう教師は呼びに来ない。


 いとのような欠席なしの皆勤賞であろうとも、ガン無視である。


「お昼は何食べるかなぁ、…」


 何か段々と抱きつくように眠るようになってきた恋人いとを起こさぬように、不良が発した声は誰にも聞かれることなく春の風に流されていった。


 

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