第33話 氷に埋もれた勝利
「私がゴーレムの注意を引くわ。その間に氷女が魔法でぶっ壊して。核が見えたらミーナ、あんたのナイフで粉砕。アレンとリリシアは後方でバックアップ、よろしく!」
ルビアの作戦指示に、エリーナがわずかに眉をひそめたが最終的には頷いた。少し不満そうではあるけど、現状それがベストだと分かっているのだろう。ここで言い合いに発展しなくて助かった。
そして、作戦が決まれば行動は早い。
「いっけぇぇぇぇええええ!!」
叫びと共に、ルビアが疾風のようにゴーレムへ突撃。剣が石の装甲を打ちつけるが、硬質な音を立てて弾かれる。わずかに表面を削るだけで、致命傷にはならない。
それでも、ルビアは怯まない。ゴーレムの巨腕を紙一重でかわし、あえて無力な攻撃を繰り返し続ける。完全に“囮”を完璧にこなしていた。一番危険な役だが彼女は笑っていた。戦いを楽しむ、俺には分からない感情だがきっとルビアは楽しんでいるのだろう。
一方で、エリーナは静かに詠唱に入る。彼女の身体から魔力が溢れ出し、空気を震わせていく。
普段は使わない長詠唱。それは、威力を限界まで高める証。
「永久の沈黙に凍てろ……砕けぬものよ、砕けるまで氷つけ――」
エリーナが右手を掲げると、冷気が空間を満たす。
「《グラシアル・クラッシュ》!」
天から落ちてきたのは、巨大な氷塊。
ドォォォォンッ!!と地響きを立ててゴーレムを直撃。その巨体を圧し砕くように、石の装甲ごと押し潰した。
――見事な直撃。動きはない。
「やった……? さて、核は……」
だが、ここで問題が発生する。
「お嬢様、核が……見つかりません」
ミーナが困惑気味に報告。俺たちも手分けして破片を探すが、前授業で習った赤い核らしきものはどこにも見当たらない。
「ルビア、そっちにも無いか?」
「ない! ていうか! 魔法撃つ前に合図ぐらいしなさいよ!」
「合図なんてしたらゴーレムに気づかれるでしょう?」
「そもそもゴーレムにそんな知能ないっての!」
「二人とも! 言い合ってる暇があったら核を探せ!」
俺のツッコミにより、ようやく場が落ち着く。
とはいえ、ゴーレムは再生する気配がない。これが少し奇妙だ。
「アレン君……」
服の裾を引っ張ってきたのはリリシアだった。
「どうした? 今は核を探さないと……」
「それなんだけど……ゴーレム、再生してないよね?」
言われてみれば確かに、石の欠片が蠢く様子もない。
「エリーナの魔法で……核ごと、砕けちゃったんじゃないかなって」
「……それだ!」
核の破壊がなければ、ゴーレムは再生し続ける。
でも今、奴はピクリとも動かない。なら核はすでに壊れている可能性が高い。
「エリーナ、あの氷、消せるか?」
「造作もありませんわ」
エリーナが指をパチンと鳴らすと、あの巨大な氷塊が一瞬で霧散した。
そこに現れたのは――砕けた赤い結晶の破片。
「核、あった! 完全に砕けてる!」
「さすがです、お嬢様」
「すごい……です、エリーナさん……!」
ミーナとリリシアが賞賛を贈る中、エリーナはふふんと鼻を鳴らしていた。
「当然ですわ。あの程度、私の敵ではありません」
「はいはい、すごかったわよ。さっさと帰りましょ。もう埃で喉が痛い」
「同感ですわ。こんなジメジメした遺跡、長居する場所ではありませんものね」
珍しく口調が柔らかいふたりに、俺は少しホッとする。
このまま喧嘩せず帰れることを祈りながら、俺たちはダンジョンの出口を目指した。
“風鳴りの小遺跡”はもともとモンスターや罠の数が少ない。
往路でほとんどの敵を片づけていたおかげで、復路はほぼ無抵抗のまま出口までたどり着くことができた。
――これで、ついに、ダンジョン三回目にして初めて、無事に帰還成功!
1回目はDランクの化け物に遭遇し、2回目は例の犯罪組織”アルカ・ネクス”に出くわし、散々な目に遭ったが――
今回は誰も怪我せず、トラブルもなく帰ってこれた。それだけで感動もひとしおだ。
全員の帰還を確認したクロード先生が、口を開く。
「今日の実技試験は、これにて終了とする。来週には個々の成績を伝える。まぁ、そんなに肩肘張らんでもいい。赤点はいない。それだけ伝えておく。あとは解散! ゆっくり休め」
「赤点……ないんだ……」
ほっと胸をなでおろす俺。その言葉だけで救われた気がする。
活躍は控えめだったけど、試験を無事終えた。それだけでも充分だ。
(さて……来週まで暇だな。何して過ごそうかな――)
そんなことを考えていた矢先、ルビアが声をかけてきた。
「ねぇアレン、明日暇? 買い物、付き合ってくれない?」
「いいけど、何か用?」
「ゴーレム戦ったときに剣がボロボロになっちゃってさ。買い替えようかと。それに――」
彼女は少しだけ視線をそらして、言葉を続けた。
「……せっかくだし、アレンと一緒がいいなって」
その言葉に、俺の顔が少しだけ熱くなる。
「い、いいけど……予定ないし」
「じゃ、決まりねっ! 明日、楽しみにしてるから!」
笑顔のルビアに頷きながら、俺は少し楽しみに思った。
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