訓練

洗礼術式に痛みはなかった。

ただし大きな弱点というかデメリットというかそういうものがある。

全身びしょ濡れにならないといけないことだ。

僕はあのあと全身びしょ濡れになりながらも痛みが消えるのを実感していた。


「回復もできるなんて便利だな」


「さて、礼賛。訓練の前に着替えよう。びしょ濡れで訓練するわけにもいかない」




そのあと僕は学ランに着替えさせられた。

……いや、別にいいけど、魔術師の服とかじゃないんだ。

 

「制服とかはない、慣れ親しんだ服の方が戦闘の時とかにも役に立つだろ。さっきの戦闘でも学ラン使って戦っていたじゃないか」


「まぁ、そうだけど……」


「よし、今度は杖を渡そう」


「杖?」


「そう、使ってただろ?杖がないと使えない魔術とかもあるし初心者は杖を使った方が安定する」


黒谷はどこからともなく杖を取り出した。

その杖は1メートルぐらいの長さで全体的にスリム、黒く塗装されていた。


「これがお前の杖だ。ほれ」


黒谷は掛け声とともに僕に杖を渡す。


「よく触って、よく観察しろ」


ふむ、なるほど、なるほど、手触りが思ったよりいい。

僕は見様見真似で構えてみる。

ふ、様になっている気がするぞ。


「うん、大丈夫そうだな、じゃあ訓練に移ろうか」


黒谷はそういうと僕を扉を開けて、


「ついてきて」


と言ってきた。

僕はそれに従うことにした。


黒谷について回るといろんなものを見ることができた。

スーツ姿の大人の人。

杖を持った人。

スマホで電話しながらぺこぺこしている人。

全員が魔術師なのだろうか。

ここの施設は思ったより普通だった。

どこかのホテルの廊下のようなところもあれば、企業のビルのような場所もあったが、異常というようなところは一つも見つからなかった。

十分程度、黒谷についていくと、一つの扉の前で止まった。

黒谷がその扉を開けて中に入るので僕もついて行った。

その部屋には見覚えがあった。

あの洗礼術式の人と戦った時の部屋だった。

いや、正確に同じかはわからないが部屋のサイズが似ている。

そもそも部屋に特徴がないので確信は持てない。

しかしあの時の部屋とは違うところがあることに気づく。

部屋の中央に人体模型のようなものが置かれていたのだ。


「今から君に教える魔術は」


僕が部屋を観察していると黒谷が話し始めた。


「基本攻撃魔法、マレフィキウムという魔法。魔女の悪行とも言われてる」


黒谷はどこからともなく杖を取り出す。

そしてその杖先を人体模型に向ける。


マレフィキウム魔女の悪行


杖先から光線が放たれた。

その光線は人体模型に命中し、人体模型をぐちゃぐちゃに破壊した。


「この魔術が与える効果は死。生命体に対して死を与える」


「強いな」


「確かに効果は強大だけど、全ての魔術師が使うことができるという知名度、誰にでもできる簡単さのせいで防ぐ術が何個か開発されている。例えば他の魔術をぶつけて相殺するとかな」

 

黒谷の杖が光となって消える。


「今からこの魔術を習得してもらう。その前に魔力の流し方を習得する必要があるね」


そういうと黒谷は僕のお腹を触る。

医者の触診のように触り始めた。


「……ここだ」


黒谷は何かを見つけたかのように僕のお腹の一点を強く押す。


「ここから全身に魔力が流れている」


黒谷は僕に語りかける。


「目を閉じて、イメージするんだ、魔力の色は黄色だ。黄色い魔力が自分の身体の巡っているのをイメージするんだ」


僕は黒谷の言う通りにする。


「いい調子だ、次、自分の目にその魔力を集めて」


僕はイメージを続ける。

自分の全体図。

髪の毛一本まで。

そして魔力の流れを。

そしてその流れを変える。

目に集中するように。


「目を開けてみて」


僕は目をゆっくりと開ける。

その時、何かが見えた。

目の前にいる黒谷の全身から青い色の何かが出ている。


「見えているようだね、これが魔力だ」


僕は自分の手を見る。

黄色い魔力がうっすらと出ているのがみえた。


「覚えが早い、いい調子だ、一度目に魔力を流してしまったらなかなか抜けないからもうそこの流れを意識する必要はないよ。けど全身に気を流すイメージを忘れちゃダメだからね。次は魔術だ」


黒谷は僕の持つ杖を支えるのを手伝ってくれた。

照準を人体模型に合わせる。


「今君の頭の中にある全身図に杖を加えて」


「その杖先に魔力を集めて」


「魔力を集めたら、呪文を言って、放つんだ」


「呪文はマレフィキウム


杖先に魔力をゆっくり、集中して、集める。

……いまだ!


マレフィキウム魔女の悪行!!」


目を見開き、呪文を放つ。

杖先に溜まった光弾が光線となり放たれた。

その光線はただ立っているだけの人体模型を破壊した。


「よくやったね礼賛」


「あ、あぁ」


「じゃあこれから一ヶ月、魔力を流す訓練とマレフィキウムの訓練をするよ」


「い、一ヶ月もやるのか?」


「うん、目標は魔力を常に目を流して魔力を探知する術を身につけることと、マレフィキウムの速射力を手に入れることだね」


「それってきついか?」


「まぁ、普通に戦うなら体力とか筋力も必要だから、そっちも訓練するしね」


「……やらなきゃダメか?」


「ダメだね」


こうして地獄の訓練が始まってしまった。

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