JKアサシン米子 外伝 『米子ZERO』(全4話)
南田 惟(なんだ これ)
第1話 Chapter1「米子13歳 千歳訓練所」
Chapter1「米子13歳 千歳訓練所」
「任務こそ全てと心得よ」
「組織に全てを捧げ、忠実であれ」
「己の存在は元より無きものと心得よ」
大きな通りと歩道が前方に伸びている。歩道の右側は雑居ビルと商店が並んでいた。雑居ビルの影からスーツ姿の男が2人現れてこちらに拳銃を向けた。
『バンッ』 『バンッ』
SIG-P226が反動で跳ね上がる。2人の男がモザイク模様になった後に景色から消えた。景色は前に進む。路肩に3台の車が停まっていた。2台目のワンボックスカーのスライドドアが開いてグレーの作業着を来た男が飛び出すように降りた。こちらに拳銃を向ける。
『バンッ』
撃たれた男がモザイクになる。スライドドアから同じ服装の2人目の男が降りてこちらに拳銃を向ける。続くように3人目の男が運転席から降りながらこちら拳銃を向けた。
『バンッ』
2人目の男がモザイクにならずにその銃口が火を噴いた。同時に3人目の男の銃も火を噴く。
「ウッーーーーー!」
米子は叫びながらその場に両膝をついて苦痛に耐える。両腕と腰と足に着けた電極パットから1000ボルト5ミリアンペアの電流が5秒間流れたのだ。米子は上下とも薄茶色の戦闘服を着ていた。
『沢村、反応が遅い! 2発も撃たれたぞ! しかも1発外した! 実戦ならお前はもうこの世に存在しない!』
若宮教官の声がスピーカーから響いて倉庫のような施設の中で反響した。
「すみません」
米子は立ちあがって銃を構えた。前方の景色が室内に変わった。コンビニエンスストアの店内でレジの前だった。米子はゆっくりとレジ前を横切るように歩いた。店内の風景が前に進んだ。入り口の自動ドアが開く音がした。米子はしゃがみなら後ろを振り返る。店の入り口から青いブルゾンを着てジーンズを穿いた男がショットガンを構えて入って来る。
『バンッ』
米子は右膝を床に着けながら発砲した。ショットガンを持った男がモザイクになった後に消えた。米子はすぐに後ろを向いて店内を見回す。奥の棚のから人影が飛び出した。
『バンッ』
米子は飛び出した人影に発砲した。10歳くらいの女の子の胸から血が噴き出し、後ろに倒れた。レジの奥から人影が現れた。米子は体を捻ると素早く狙いを付けた。
『バンッ バンッ』
2発発砲した。紺色の戦闘服の上に赤いベストを着けた人間の頭が破裂するように血を飛び散らせた。
「ウグーーーーー!」
米子は足が内股になって前に転倒した。さきほどより強い電圧の電気が電極パッドから流れたのだ。赤いベスト着用したターゲットは味方である。味方を撃った場合は10万ボルト1ミリアンペアの電流が8秒間流れるのだ。人体への致死的な影響は電圧(ボルト)よりも電流(アンペア)の影響が大きい。高電圧でも電流が少なければ痛いだけで致死的ダメージにはならない。ドアノブに触った時の静電気は数千ボルトから数万ボルトに達するが、電流が少ないため致死的ダメージにはならない。スタンガンも電圧が100万ボルトの物が市販されているが、電圧による痛みは感じても電流は極めて微弱な為に死に至る事は無いのである。
『バカ野郎! お前が撃ったのは味方だ!』
スピーカーから若宮教官の怒号が響いた。
「そうです」
米子は力なく言った。電気ショックのダメージがまだ体に残っていた。
『子供を撃ったのは仕方ない。警察の訓練ならNGだが、我々の組織はターゲットを排除する事が全てだ。過失で一般人を撃ってもペナルティにはならない。むしろ暗殺においては目撃者を排除することが必須だ。しかし味方を撃つ事は大きなペナルティとなる。わかったか!』
「了解しました」
『お前は人を撃てない腰抜けか!?』
「違います!」
米子は叫ぶように言った。
『なら躊躇しないで撃て!』
「はい、了解しました!」
『お前は味方を撃つ裏切り者か?』
「違います! 違います!」
『お前は組織の一員か?』
「そうです!」
『なら今後は味方を撃つな!』
「了解しました!」
『目撃者は子供でも知人でも躊躇なく撃て!』
「了解しました!」
教官からの問い掛けや叱責に対して言い訳は許されない。『そうです』、『違います』、『了解しました』で返答する事が決まりとなっていた。
この訓練は、360度の巨大なスクリーンに映し出されたターゲットをいち早く撃つ訓練である。様々なロケーションやシチュエーションで登場するターゲットをコンマ1秒でも早く撃つ事が要求されるの。使用する銃は実銃であるがレーザーユニットが装着され、発砲と同時に0.1秒間レーザーを照射する。スクリーン上のターゲットがレーザーを感知すると当たり判定となる。装弾されている弾丸は弾頭がゴムの演習弾であるが射撃時の反動は実包と変わらない。この訓練の最大の効果は反射的に躊躇なく発砲できるようになる事である。このシステムはアメリカの新兵訓練に取り入れられている。第2次世界大戦やベトナム戦争では『新兵』の殆どが敵との遭遇時に緊張と恐怖感により発砲する事ができないという事実が明らかになった。しかしこのシステムで訓練を実施する事により、遭遇時の発砲の比率は90%以上に向上したのである。訓練を受ければ敵の姿を認識した時に条件反射により機械的に発砲する事が可能になるのだ。撃たれた時、もしくは味方を撃った時に電流が流れるのは内閣情報統括室の訓練所独自の仕様だ。電流による強烈な苦痛を味わいたくなければ早く正確にターゲットを撃たなければならない。
米子は15m先の的の中心に照星と照門を合わせる。
『パン パン パン パン パン』
米子は的に向かってベレッタ92Fを5発撃った。
「ほう、49点か。お前はなかなか筋がいい。中学1年の中では一番だ。来週から距離を20mにする。今日の訓練は終了だ、ゆっくり休め」
坂本射撃教官が言った。
「ありがとうございます!」
米子は大きな声で教官にお礼を言った。ターゲットへの射撃訓練は毎日の必須訓練だった。紙のターゲットには5つの同心円が描かれ、中央の2.5cmの円が10点、次の円の範囲が9点と外にいく毎に1点ずつ点数が下がっていった。一番外の円は6点で、それより外は0点である。訓練生は1日に200発の実弾射撃を行う事が日課となったおり、最後の5発は教官の監視のもと、42点以上のスコアを取れば合格とされ、それ未満の場合は80発の追加の射撃を行わなければならなかった。米子は天性の射撃センスを持っていたのでどんなに調子が悪くても45点を下回る事はなかった。
米子は食堂で日替わりメニューを黙々と食べた。訓練所の食堂では好き嫌いを考慮して毎日2種類のおかずが日替わりで用意されていた。おかずの他は白米、味噌汁、サラダ、漬物だった。白米は食べ放題だった。訓練生達は実に良く食べた。訓練での消費カロリーは日によっては普通の中学生の2倍以上となるので食べないと体がもたないのだ。食事中の私語は厳禁だった。これにはインフルエンザなどの感染予防の観点によるものであったが、徹底的に訓練生の娑婆っ気を抜くという狙いもあった。私語が許されるのは自室と休憩室のみだった。この為、訓練所では学校のように友達を作る事は難しかった。
中学生になった米子は東京の児童養護施設から都内の公立中学校に通っていたが、4カ月前の6月に内閣情報統括室の人事課の職員にスカウトされて訓練所に入所した。米子が入っていた児童養護施設は内閣情報統括室と提携しており、優秀な児童がいた場合は内閣情報統括室に報告する事になっていた。並外れた知能と運動能力を持った米子の存在は小学校5年生の時に内閣情報統括室の人事課に報告され、職員の興味を引いたのだ。そして中学生になった米子にスカウト手が伸びたのである。
家族を目の前で惨殺された精神的ショックを引きずっていた米子は中学生になっても周囲に笑顔を見せる事ができず、クラスに馴染めずにいた。米子は何かに没頭したいと考えていた。そんな米子にとって訓練所の入所の誘いは悪い話ではなかった。訓練所を卒業して政府の組織に入れば高校の授業料を組織が負担し、一人暮らしも可能との事だった。また、家賃や水道光熱費も組織が負担するという条件は魅力的だった。米子は迷うことなく訓練所に入所する事を希望した。学校を転校する事はまったく苦にならなった。
米子の入所テストの成績は内閣情報統括室人事課の職員や訓練所の職員及び教官を驚かせた。内閣情報統括室独自の知能測定検査の結果は歴代最高の得点で、一般的なIQに換算すると160以上であった。また、体力想定においても短距離と長距離の走力が中学生女子の全国大会レベルだったのだ。短距離と長距離の両方が速いというのは筋肉分布的には特異な事である。まれに遅筋と速筋の両方がバランス良く発達する例はあるが、大体はどちらかに偏るのである。
新入訓練生6名は訓練所の入所初日に装備品の支給を受け、訓練所での生活や施設利用についてのレクチャーを受けた。そして明日までに工作員3箇条を覚えるように言われた。
【訓練所における工作員3箇条】
「任務こそ全てと心得よ」
「組織に全てを捧げ、忠実であれ」
「己の存在は元より無きものと心得よ」
米子達は入所翌日の早朝の点呼時に3箇条を何度も暗唱させられた。教官は1人1人に難癖をつける。「声が小さい」、「腹から声が出てない」、「活舌が悪い」、「暗唱中に瞬きをした」、「体が動いた」等である。
そして罰則として工作員3箇条を暗唱しながらのグランド5周が命じられた。以後毎朝、点呼終了時に工作員3箇条を唱和している。
訓練所は北海道千歳市の自衛隊演習地に併設していた。訓練所の所長は漆崎正昭63歳。漆崎は陸上自衛隊で陸将の階級まで昇り詰めた優秀な自衛官だったが3年前に60歳の定年に達して退官した。退官後は内閣情報統括室の依頼により訓練所の所長を務める事になった。
訓練所では12歳から15歳の17名の少女達が2級工作員になるべく訓練を受けていた。みんな何らかの形で両親を失った孤児である。平日は訓練所の近くの2つの公立中学校に分かれて通っていた。送り迎えには施設の職員が運転するマイクロバスを使っていた。訓練所は表向きには孤児達が共同生活を行う養護施設という事になっていた。訓練生は学校で訓練所の話をすることを禁止されていた。学校の教師が目を光らせ、もし訓練所の話をしたら訓練所に通報が行くシステムとなっている。中学校の教師は一般の教員であったが、訓練所への協力が義務付けられており、逆らえば解雇されるだけではなく、教員免許も剥奪されるのである。
訓練所では土日や祭日も訓練が行われ、学校の夏休みや冬休みも休みにならなかった。むしろ学校の長期の休みこそ訓練を徹底できる機会だった。一般の中学生にとって楽しみな夏休みや冬休みも訓練生にとっては恐ろしくて憂鬱な期間だった。訓練の休みはお盆の3日間と大晦日と正月の三が日だけであった。行事も殆ど無く、大晦日の大掃除と正月の餅つきだけが行事らしい行事だった。年頃の少女が集まる場所であったがハロウィンもクリスマスも無い乾いた世界だった。以下が訓練所の1日のスケジュールである。
【平日】
6:00 起床・着替え
6:05 点呼・3箇条唱和
6:10 掃除
6:30 ランニング(8Km)
7:15 洗面
7:30 朝食(食堂)
中学校に通学
16:00 訓練(射撃・格闘・暗殺及び戦闘・破壊工作)
18:00 夕食(食堂)
18:30 入浴
19:00 自習
21:00 自由時間
22:00 消灯
【土日、祭日、学校の長期休み】
6:00 起床・着替え
6:05 点呼・3箇条唱和
6:10 掃除
6:30 ランニング(8Km)
7:15 洗面
7:30 朝食(食堂)
7:50 座学(語学、法律、諜報、理化学、医学、サバイバル知識)
12:00 昼食(食堂)
12:45 訓練(射撃・格闘・暗殺及び戦闘・破壊工作)
17:30 休憩
18:00 夕食(食堂)
18:30 入浴
19:00 自習
21:00 自由時間
22:00 消灯
午前中の座学は語学、法律、諜報、理化学、医学、サバイバル知識である。語学は2つの言語を学習する。英語が必須で、他は選択制で中国語、韓国語、スペイン語、ロシア語である。諜報は盗聴、盗撮、文書偽造、暗号、尋問及び拷問技術である。理化学は爆発物や毒薬及び薬物、電気、生物、気象である。医学は応急処置や防疫、人体の構造を学んだ。サバイバル知識は自然の中で生き残る為の知識であり、野外実習も行われた。
午後の訓練は各種銃器の取り扱いと実弾射撃がメインである。格闘については訓練所独自の格闘術を学び、ナイフ格闘や剣術も含まれた。中学3年生になると適性を判断され、戦闘要員組と暗殺要員組に分けられて専門的な訓練を行った。冬の間は室内での訓練が主であった。
食事の後は22時の消灯時間まで自習と自由時間であったが、座学の宿題が山ほど出 るので実質的に勉強時間となった。風呂は共同浴場を使用した。施設には娯楽施設は無く、テレビは休憩室以外には無かった。訓練生達は自分の部屋でひたすら座学の宿題に取り組んだ。訓練生は基本、4畳半の1人部屋を与えられたが、空き部屋の都合で米子は6畳の部屋に2歳年上の『観月あさり』と寝起きしていた。最初は2歳上の先輩にどう接したらいいのか分からず困惑したが、観月あさりが無口なタイプだったので同室であっても苦にならなかった。また、観月あさりが先輩風を吹かせる事無く優しくフラットに接してくれた事が嬉しかった。
訓練生はIQ120以上と知能が高く、運動神経も抜群に良かったが、退所する者もいた。訓練についていけない者、病気になった者、訓練中の事故により大きな怪我を負った者、精神を病んだ者は訓練所の判断で退所させられるのである。退所した者は元の児童養護施設に戻され、しばらく監視がついた。訓練所の事は生涯口外してはならなかった。口外したこが発覚すれば政府が管理する病院の閉鎖病棟に強制的に収容される事になる。収容者は薬によって精神をコントロールされ、最悪の場合廃人になる事もあった。
『ボスッ』
米子の右前蹴りがスパーリング相手の腹に当たった。米子は右足を着地させると同時に
頭の下がったスパーリング相手のこめかみに右肘を叩き込んだ。スパーリング相手は膝か
ら崩れ落ちた。スパーリング相手は1年年上の中学2年生で谷口という名前だった。谷口の身長は160cmで米子より3cmほど高く、筋肉質で体重は5Kgほど重かった。この頃の米子は高校3年生時点よりも身長が8cm低く、体もまだ出来ていなかった。
「沢村、モタモタしないでさっさとトドメを刺せ!」
宮野格闘教官の声が飛んだ。トドメを刺すことは絶対の決まりだった。実戦において習慣化させるためである。米子は倒れたスパーリング相手の喉に足刀蹴りを軽く入れた。動けなくなった相手へのトドメは軽く入れる事が訓練上のルールになっている。
「沢村はだいぶコツを掴んできたな。お前はタイミングを合わせるのが上手い。だが威力が弱い。筋トレとサンドバック打ちをもっと増やせ。谷口、お前はディフェンスが甘い。手で受けるんじゃなくて体を回すんだ! わかったか!」
宮野格闘教官が大きな声で言った。
「了解しました!」 「了解しました!」
米子と谷口が同時に言った。
宮野は陸上自衛隊で格闘教官をやっている現役自衛官で自衛隊内の徒手空拳大会では優勝経験もある。週に2日ほど、この訓練所に来て訓練生を鍛えているのだ。この訓練場の格闘教官と射撃教官は現役の自衛官が多かった。時々外部から呼んだ格闘技のプロが特別教官として指導に当たることもあった。内閣情報統括室の訓練所は全国に3カ所あるが、他の2カ所は警察関係の教官が多かった。
「沢村、俺が相手だ。全力で来い」
宮野教官が前に出て独特のファイティングポーズをとった。米子も教官もオープンフィンガーのグローブを付けている。米子はいきなり右ストレートを放った。教官が体を沈めながら米子の右ストレートを避けると右肩で米子の左胸にタックルをした。米子の体が崩れると教官は米子を背負い投げで投げ飛ばした。
『ドスッ』
「うぐっ」
米子は背中から地面に叩きつけられた。強烈な衝撃に息が止まり、上半身を強い痛みが襲い、全身が痺れて動けなかった。教官達は容赦がなかった。訓練生達は毎日の格闘訓練で体中が打撲で痛み、打撲痕だらけだった。口の中と鼻の中は常に切れた状態だった。
「沢村、さっさと立て! ストレートはコンパクトに打て、お前のパンチは丸見えだ。投げられそうになったら腰を落とすんだ。相手の首に腕を巻きつけろ」
「了解しました」
米子は立ち上がりながら声を出した。
「よし、2人で向かい合って腹を打ち合え!」
教官が言った。
米子と谷口かい合ってお互いのボディを交互に全力で殴った。単調にならないようにボクシングのボディーブローと空手の正拳突きと日本拳法の縦付突きをランダムに打ちあった。
ボディに拳が当たる音が交互に響いた。
「他を見て来るから続けてろ」
「了解しました!」
「了解しました!」
教官は去っていった。教官が戻って来るまでは向かい合ってお互いのボティーを殴り続けなければならない。時には1時間も殴り合うこともあった。訓練生達は自重筋トレで徹底的に腹筋を鍛えていたが、パンチによる打撃に耐えられるようになるには殴り合うのが一番だった。
米子は入所当初は力が上手く入らず、蹴り技もパンチも振り回すだけでまったく威力が無かった。しかし毎日積極的にサンドバックを打ち、スパーリングを重ねる事で力の入れ方のコツを掴んだ。当てた時の威力や手ごたえと相手に与えたダメージを感じ取れるようにもなった。厳しい訓練によって元来の身体能力と天性の格闘センスが磨かれ、米子はどんどん強くなっていった。特にボディーブローの威力は強烈で、金的蹴りは正確さを極めた。また、肘撃ちと貫手と頭突きの訓練も徹底的に行い、体全体を凶器に変えていった。
米子と谷口は40分ほどお互いのボディを殴り合っていた。
「沢村1年生、私もう限界だよ。今朝も血尿が出たんだよ、ねえ、手加減して」
谷口が悲鳴に近い声を上げたが米子は黙って殴り続けた。教官の命令は絶対だった。教官が止めろというまでは止めるわけにはいかなかった。手加減することも命令違反となった。
米子は命令とルールに従順だった。それは訓練所に見捨てられたくなかったからだ。米子には他に行く場所がなかったのだ。
谷口は顔が真っ青で脂汗を流していた。谷口のパンチはまったく威力が無くなっていた。米子は筋肉の痛みはあったが内臓へのダメージはまったくなかった。谷口の頭が前のめりになり、パンチを出さなくなった。
『バコッ』
谷口が横にふっ飛んで地面を転がった。戻って来た宮野格闘教官が蹴ったのだ。
「谷口2年生! お前はふざけてるのか!」
「教官、もう限界です。何日も血尿が出ています。体が動きません」
谷口が地面に四つん這いになって言った。
「バカ野郎! そんなもん気合で直せ! グランド5周、急げ! 沢村、お前もだ、連帯責任だ! 全力で走れ!」
宮野格闘教官が叫んだ。米子と谷口は命令に従ってグランドを走り始めた。訓練所のグランドは1周が800mだった。米子は谷口を置いてどんどん前に出た。あっという間に谷口を周回遅れにした。米子は苦も無く12分で5周を走り終えた。谷口は米子に4分遅れて走り終わると倒れ込んだ後に四つん這いになって何度も吐いた。吐瀉物の殆んどは胃液と唾液だったが血も混ざっていた。谷口の内臓は悲鳴を上げていた。
「谷口、医務室に行って診てもらえ。但し射撃訓練だけは休むな。200発をきっちり撃つんだ」
「了解、しま した」
谷口は荒い息をしながら言った。
「沢村1年生、お前は足が速いな。持久走は何分だ?」
「持久走のタイムは1500m4分32秒です!」
「おおっ、全国大会レベルだな。格闘もセンスもなかなかいいぞ。だからもっと伸ばすんだ。パワーをつけろ!」
「了解しました!」
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