25376290.あるとは思ってなかったけれど

 アクアヴィタエまであと2万時間。あっという間である。

「しっかし、よく見つけたねぇアクアヴィタエ地球環境近似惑星なんて」

 そりゃあ確かに私達の目的はそれを見つけて着陸、そのあとテラフォーミング棒をぶっ刺すことではあるのだけれど。

『えぇ、僕も正直言えば、自分のエラーを75京回疑いました』

「でも結果的に大丈夫そう、と」

『その通りでございます』

 なんで急に丁寧語になったんだこいつ。長いこと一緒に居るけど良く分からんタイミングで良く分からんことを言うんだよな。

「まぁいいや。とりあえずあとちょっとでしょ? 目視できる?」

『驚くほどに簡単です』

 意味不明な形容詞だなー。


 モニタにピピッと赤い枠線。中央にあるそれは、真っ青な球形。

「わぁ。本当に地球っぽい」

『平均外気温、推定25度。二酸化炭素の塊が地中に埋もれて、発掘されたあと大気に放出されなければだいたい地球と一緒です』

「そんな無茶苦茶な条件の星、2つもあってたまるかー。青いのはもしかして水?」

『驚くべきことに。ただ……』

 珍しく口ごもるアル。スピーカーごもる? うーん。

『聞いてます?』

「あっ、ごめん、聞いてなかった。なになに」

『地面の組成が変です』

「変。具体的には?」

 うーん、と唸りながら空中でふわふわ回る。器用だなぁ。

『僕の装甲をベースに6世代くらいアップグレードしたものが地殻になっています』

 変とか奇妙とかそういうレベルの話じゃないだろうそれは。

「待った。アルがそう感じるだけで、実は自然に発生したものである、なんて可能性は?」

『ゼロを証明するのは不可能ですが……としか』

 つまり。

「めっちゃくちゃ変だね……」

 2人でうんうん唸っても、答えは出ない。


 結局、50時間後には2人で思考を放棄して、アクアヴィタエから推測される星座を作って遊ぶことにした。



「はい、というわけでね、今からアクアヴィタエに降下しようと思いまーす」

『少しは緊張くらい感じてください』

 そんな難しいことを言うな。私には無理だぞ。

 悩む私の顔がアルのカメラで記録されていく。

 まぁいいや。


「EVAマシーン、投下ー」

 えいやっとパネルをタッチ。直後、ふぉんと奇妙な音が船体に鳴り響く。赤熱を伴ってアルの端末が幾つか惑星に向かって落下していく。

「何個落としたの?」

『落としてから確認しないでください。11個です。次は13。素数で落としていきます』

 なるほど、知的存在がいたら意味を見出してくれるかもしれない。

『……お忘れかもしれませんが、11は我々エピタフ号にとって特別な数字ですよ』

「……お忘れでしたが……本体とテラフォーミング棒の合計で11ってこと?」

『時々、この人とこれだけ永い間一緒にいて、よく発狂しなかったなと思います』

 いちいちうるさいやつだなぁ。目的地上空なんだから細かいことはいいじゃんか。


 ……あれ? 上空? 赤熱?

「ねぇ、アクアヴィタエって」

『大気の話なら1万時間ほど前にログが存在するのですが』

 聞いてなかったかもしれん。もしくは流した。

「いやほら、アルってことあるごとにゲーム誘ってくるから……」

『スルーの言い訳を今しますか』

「そんなに地球っぽいの?」

『このホモサピエンスはまったく。恐ろしいことに、ほぼ地球です』

 ……今、ふと、とても怖いことを思いつく。

「あのさ、うっかり地球に戻ってきた可能性は……?」

『ゼロです他の惑星の位置も違えば太陽系も無くなんなら太陽は地球のものより遥かに若い個体でアクアヴィタエ周辺は月に該当する衛星もありません』

「悪かったってば。そんなに怒るなよー」

『ロボットに感情はありません』

 感情のあるやつしか言わないセリフだよそれ。言わずが花。黙ろう。私には感情があるので。



 EVA端末をふわふわ飛行させていると、白い島が視認できた。

「これはー……」

『前述の通り、僕の外殻のアップグレード版、としか言えません』

 構成要素に一部未知のものが含まれこそするものの、確かにアルっぽい。

 色も白いし。

 ただ、もっとおかしなことに、

「私が幻覚を見ているのかそれとも発狂したのか、はたまた本物の映像なのか判断がつきませんけれどー」

『ヒト、ですね』

「ヒト、だよね」

 ヒトがいる。

 まぁ単純にヒトと言って良いのかどうかやや怪しい外見ではある。腕の本数が違ったり、角が生えていたり、頭のサイズが5倍くらいあったり、酷いのになると翼が生えていたりもする。

 が、基本的に四肢、二足歩行、直立。顔面の形状はほぼホモサピエンス、時々角。


「ねぇアル。もしかして私、とっくに発狂してる?」

『だとすれば僕も同じです』


 水上すれすれでふわふわしているEVAマシンを通して見る景色は異様の一言だ。

 私とアルが顔を見合わせている隙に、コンソールがアラートを吐き出す。EVAマシンが何者かに接触されたようだ。しかも、下から。

「えっ」

『カメラコントロールをいただきます』

 言うが早いか、EVAマシンが下を向く。

 するとそこには、

「半魚人……?」

 魚の顔をした人間がいる。恐ろしいことに手足にはヒレこそあれど五本指。猿から進化していないと、こうはなりにくい。なんだこれは。


 半魚人は手話らしき挙動をぱぱっと行う。物凄く早い。早送りの画像かと思った。でもそんなことをする意味が無いので、等速再生生中継は間違いない。


「うーん……?」

『困りましたね』

 困る。半魚人のモーションを手話言語に照らし合わせると、ぴったり合致する言語が一つだけ存在する。22世紀になって制定されたアレだ。


「いやでも理屈は通るよ。半魚人っぽいヒトは口の形が人間じゃないから、発話できない。そう考えると、ジェスチャーによる会話が成立する……けど……」

 私の頼りない推論に、すかさずアルが応じる。

『だとすれば、超音波による会話になるのでは? 手話ではあまりに会話の射程が短すぎます』

「ホモサピエンスに酷似した形態の彼らが超音波を発するのは難しい、とか?」

『全ては推測の域を出ませんが……EVAマシンを引っ張りたいようです。どうやら、陸地に向かうのではないかと』

 よしきた、と膝を打つ。

「行ってみよう。もしかしたら、なにか判るかも」

『了解』

 初めて船員と船のようなやり取りをした気がする。


 EVAマシンが通されたのは、白亜の海岸。砂粒は無く、のっぺりとした外殻が水辺に横たわっている。

 いやもうこれ。

「ほぼアルの外殻じゃん……?」

『いえ、そんなはずは。僕らは地球脱出第一船団です。僕らよりも早く遠くに向かうことは理論上不可能なはず』

「それはー……あんまそういうこと言わないほうが良いと思う……」

『何故です?』

「……そういえばアルは、あんまアニメ見なかったね」

 ロボットが理論上不可能と言えば、それはつまりただのフラグでしかない。


 島の中央にある建物……というかテラフォーミング棒にしか見えないそれから、角の生えたヒトがやってくる。服装は布多め。他の人々は真夏のビーチみたいな格好をしているから、ローブ姿はちょっと目立つ。多分、偉い人なんじゃなかろうか。

 そのちょっと偉そうな格好の人は、

「アクア・ヴィタエにようこそ」

 笑えるくらい流暢なで告げた。

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