詩人彗ちゃんの桃のレシピ〜彗ちゃんシリーズ1

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第1話 いとこの彗(けい)ちゃんはナルシストな詩人

〜いとこのけいちゃんは、ナルシストな詩人




いとこのけいちゃんは、ナルシストな詩人。

背が高く、涼やかな瞳とシャープな輪郭。

白いシャツに黒のパンツ、モノトーンの装いはいつも完璧で、まるで現実の人間ではないかのようだ。


けれど、そんな外見とは裏腹に、彼は少し子供っぽい。

哲学の本を読みながら「桃は夏の宇宙のかけらだよ」なんて真剣に言う。

思わず笑ってしまう――

その無邪気さに、心がふわりと揺れる。



右の小指で光る銀の指輪。

それを見るたびに、誰か特別な人がいるのではと胸の奥がざわめく。

ほんの少しの嫉妬と、言葉にできないときめき。



気づかれないように、私は密かに彼の仕草や言葉に心を奪われている。



今宵は、彗ちゃんのマンションで

「桃づくしの夜会」。

サングリア、パスタ、そして秘密の桃のデザート。


彗ちゃんが桃のサングリアを差し出すとき、

指先がふわりと揺れる。

「香りを楽しんで…夏の光を閉じ込めたんだ」と、柔らかく微笑む。

その声は低く、澄んでいて、思わず息を止めたくなるほど魅力的だ…。


次に桃と生ハムのパスタを置くときも、

彼は少し首をかしげ、真剣な顔で

「味覚で物語を読んでほしいんだ」と言う。

私は心の中で小さく笑いながら、でもドキドキを抑えられない…。


最後の秘密の桃のデザートが差し出されるとき、

彼はふと手を止め、私の目を見つめて小さく

「これは…特別な一皿」と囁いた。

胸が高鳴る…。



――まだ何も伝わらない、この片思いのまま、桃の甘い香りと彗ちゃんの言葉に酔いしれる夜が始まろうとしている。





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