第3話 インスタント登録

 結局姉貴が暴れたせいで状況は悪化。さらに魔物が増えたが、姉貴にちぎっては投げられていた。


「あー…つかれた…」


 俺だけ先に家に帰り、ベッドに寝ころんでいた。


「合格かぁ…!」


 やっとスタートラインに立てるんだ。


 いつ登録しに行こうか。

 その思考だけが頭をぐるぐる回っていた。


 ――世の中には、三種類のダンジョンがある。


 ひとつ目は、一般のダンジョンダイバーが潜っている、整備済みのダンジョン。

《登録ダンジョン》と呼ばれ、ギルド管理のもと秩序が保たれている。


 ふたつ目は、ゲリラ的に発生する、突発性のダンジョン。

 通称ゲリラダンジョン

 どこにでも唐突に湧くので、冒険者も一般人もたまったもんじゃない。


 そして三つ目――

 一切の踏破が成されていない、未知数のダンジョン。

《未踏迷宮》。


 登録ダンジョンに潜るには資格がいる。

 けど、ゲリラダンジョンと未踏迷宮は、その必要がない。

 だからこそ、この週末を利用して、俺の修行の場に姉貴は未踏迷宮を選んでくれていた。

 いや、選んだというより暴れたいだけの気がするけど。


「さてと。思い立ったが吉日ってやつだな」


 ぱっと起き上がり、着替えて外へ出る。

 登録施設までは歩いて十分ほど。

 外観はただの役所とそう変わらない。


 中に入ると、外観通りの地味な役所の空気が広がっていた。

 白い壁、蛍光灯の明かり、どこにでもあるパイプ椅子。

 受付窓口がいくつも並び、番号札を握った人たちが順番を待っている。


 ただ、よく見ると普通の役所と違うところがある。

 窓口の上に貼られた案内には、

「登録ダンジョン入場申請」

「ゲリラダンジョン緊急通報」

「死亡者確認・保険金請求」

 と書かれていた。


 登録ダンジョン入場申請の窓口が最もにぎわっており、逆に死亡者確認には人っ子一人いなかった。それもそのはず、現在のダンジョンでの死亡者数は、年間でも百を超えない。

 それはなぜか、やはりリスポーンアイテムの要素が大きいと思う。

 原理はあまり知らないが、なにやら自身の身体のデータをコピーして精製できる、ダンジョン由来の技術らしい。


「さてと…」


 周りを見渡すと、壁に貼られた《新規登録》の案内を見つけた。

 案内に従い、進むと、数人が並ぶ窓口があった。


 列に並び、順番を待つ。だいたい十分ほどで順番が回ってきた。


 受付の方は若めの女性で、肩までの黒髪をふんわりと巻き、清潔感のある白いブラウスに紺色のスカートを身にまとっていた。


「ダンジョンダイバーの登録に来ました」


「新規登録ですね。でしたら、この紙に必要事項の記入をお願いいたします」


 そう言って紙とボールペンをカウンターの前に置く。

 要項は主に名前と生年月日、住所などの簡単なものだった。

 さっさと書いて手渡すと、「受理しました」と淡泊な声で言われ、それだけだった。


「もう終わり…?」


「はい、終了です。本部に送信した書類を、確認してから登録するまでに三日ほど時間を要しますが、お客様の手続き自体は終了いたしました」


 思わず漏れた言葉にも、受付嬢は微笑みながら淡々と対応してくれる。

 その仕草や落ち着いた声色から、ここで毎日何百人ものダンジョンダイバーをさばいていることが伝わってきた。


「ありがとうございました」


 ささっと礼をしてから、受付を出る。相変わらず、ダンジョンの入場申請の窓口はにぎわっていた。


 ふと、その隣にある死亡者確認の窓口へと目をやると、相も変わらず一人も並んでいない。


「まあ、ああやってガラガラのほうがいいか」


 ダンジョンで死んでいる人がいないということなのだから、あそこに並ぶ人が出ないほうが良いのだろう。


「帰ろうかな」


 帰りにアイスを二つ、コンビニで買ってから、家へと歩いて行った。


 明日は月曜か。

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