ダンジョンモンスターでオートチェス~工場長と呼ばれた冒険者~

Nikolai Hyland

第1話

薄暗い洞窟のような場所。

幅は5メートルほどで、車道で言えば2車線と3車線の間くらい。

視界はやや悪くはあるが、構造物自体が仄かに発光しているようで真っ暗闇ではない。

そんな怪しげな場所を2人の男女が歩いている。

1人は短髪でスラリとした長身、意志の強そうな瞳はまっすぐと前を見つめ、そこから伸びるスッと通った鼻筋、その下の唇は真一文字に引き締められている。

シャキッと伸びた背筋が実際の身長よりも高く見せているのに加え、隣を歩く人物との対比が余計にそう思わせる。

もう1人は逆に背中を丸め、オドオドと周囲を伺うように視線を散らしながら歩いている。

元々小柄である上にそうしていると、余計に小さく思わせる。

肩まで伸びた髪は仄かな光を反射して艶めき、大きな瞳は潤んで今にも零れ落ちそうだ。


そんな2人を遮るかのように、進路上に何かが現れる。


「いたぞミカ、ゴブリンだ」


「ひええ……!」


小柄なミカよりさらに小さい、110センチから120センチ程度の体躯に、土気色をベースにところどころ赤茶色を混ぜたような体色。

体毛はなく尖った耳を持つその外見は、事前に調べてきたものと一致している。


「まだ気づいてない。できるだけ近付いて奇襲する」


「ううう……わかったよヒカルぅ……」


ヒカルは短槍を、ミカはメイスをそれぞれ構え直し、ジリジリと接近していく。

段々と近づくにつれて、その様子が見えてくる。

ゴブリンは何やらしゃがみ込んで手で何かをいじっている様子だ。

よくよく見れば、その手は腰蓑の中へと伸びている。

そこまで見て取ったヒカルは一気に距離を詰める。

その音に反応して振り返ったゴブリンであったが、その腹部にヒカルの槍が突き刺さる。

しかしゴブリンもさるもの、野生の本能か咄嗟に槍の柄を掴み、腹圧も相まって槍が抜けない。

牙を剥きよだれを垂らしながらギャアギャアと鳴き喚いている。

届きこそしないが、殺意をまるだしにして鋭い爪を振り回している姿に気圧されそうになる。


「ミカ! やれ!!」


「うううわあああ!!!!」


ヒカルが走り出すのに合わせてゴブリンを迂回して後背を取っていたミカが、メイスを思い切り振り下ろした。

ミカはその体格に見合った非力さではあるが、地球の重力を借りたその一撃にはゴブリンの命を奪うに足るエネルギーが乗っていた。

腹を刺し貫かれてもジタバタともがいていたゴブリンはそれでもなお一撃とはいかず、振り回していた腕で頭を守る。

そのまま何度も殴りつける内にようやく沈黙し、ゴツゴツとした地面へとくずおれた。


「はあ、はあ、はあ!」


「よくやったな、ミカ」


ゴブリンの後を追うようにしゃがみ込んでしまったミカの肩に、ヒカルが優しく手を置く。

今は薄手とはいえ皮の手袋をしている状態なので、お世辞にも感触が良いということはないはずであるのだが、それだけで荒い息を吐いていたミカは落ち着いていった。


「……ふう。ありがとう」


「こちらこそ。良い連携だったな」


そんなことを話しつつ、初めての実戦を終えた興奮が冷めてきた頃であった。


──カラン。


「あっ」


小さなものを落としたような音に反応するとそこには、先ほどまで横たわっていたゴブリンの死骸は存在せず、小さな赤黒い石のみが残されていた。


「ふむ、これが魔石か」


「ねえ見せて、見せて」


ヒカルが拾い上げて顔の前でしげしげと眺めていると、下の方からミカの声が聞こえてくる。


「ほら」


「わっ。ふーんこれが魔石かあ……ただの石よりは綺麗だけど、宝石って感じでもないね」


「最低等級のクズ魔石だからな。もっとランクの高いモンスターが落とす魔石は、それこそ宝石以上に綺麗らしいぞ」


「そうなんだぁ。いつかボクたちも見る機会があるかな?」


「なきゃ駄目だろ。こんなクズ魔石ばかり集めてたら、いつまで経っても目標に届かないぞ」


「そうだよね……がんばろ!」


そんなことを言い合いながら休憩を終え、探索を再開する。


ここはとある場所にある寂れたダンジョン。

アクセスが悪いことと、モンスターのポップがゴブリンばかりということもあって、併設された冒険者ギルドにも職員は配置されていない。

駅の改札とくぐり抜けるタイプの金属探知機をミックスしたようなギルドゲートや、ダンジョン資源を回収する魔石測定機やその他資源預け入れ機が設置され、輸送に関しても完全に自動化されているため、こうしたいわゆる過疎ダンジョンでは無人営業所のようなギルドもままある。

だからこそ余計な手間を嫌ったヒカルたちはこのダンジョンに赴いているわけである。

なぜなら2人の見た目は完全に未成年であり、ダンジョンに入るには適切とは言えない。

当然ながら違法行為を働いているわけではないのだが、いちいち説明するのも面倒なためこうして誰に見咎められることもない過疎ダンジョンを選んだわけである。




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毎度どうも、ニックです。

夏休み特別企画として、いくつかある新作のプロローグを書いていきたいと思います。

1時間ごとに1話という流れで、本日中にあと10話更新予定ですので、よろしければどうぞ。

皆さまの応援(★/レビュー/フォロー/❤︎/コメント)で勢いづけていただけますと大変ありがたいです。

また、作者の別作品である『異世界からの帰還者、ダンジョンのある50年後の世界にて』も本日更新予定ですので、そちらも併せてよろしくお願いします。


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