眠り姫は夢をみない。
鍛冶屋 優雨
第1話
私の幼馴染で親友といえば、ヤマトだろう。
彼とはいつも一緒に遊んだり、勉強したりしていた。
年頃の男女が一緒にいるとやれ恋愛だの結婚だのと周りからは言われるが、私とヤマトはそんな関係にはならなかった。
いや、どちらかというとそんな関係になれなかったという方が良いかもしれない。
というのも彼には特別な才能があった。
それはどんな病気でも治す薬を作る才能だ。
彼は医学の免許とかは持っていなかったけど、薬学には特化した才能があったらしく、小さな頃から製薬会社に勤めている親戚にアドバイスをしていたけどそれが話題になり、いつしか公的な組織にも認められ、薬を作るようになった。
もちろん薬が直ぐに出来るわけもないし、ヤマト曰く、個人個人に合わせて製薬しないと効果はあまりでないとのことなので、依頼があって、その個人の身体的な情報を見てからの製薬らしい。
ヤマトは守秘義務があるからと、詳しくは言わないけど、噂ではアルツハイマー症候群なんかの進行を止めたみたいな事も言っている。
一方、私と言えば容姿も普通、学力も平均、運動もそんなに出来るわけでもないし、女子力も高くはない。
ほんとうに平凡なる人間と言ったわけだ。
ヤマトみたいな特別な人と恋愛関係になるのは考えられない。
現に、今までヤマト自身も私と恋愛関係になろうとはして来なかった。
私はヤマトに惹かれていたけど、自身の恋心には蓋をして、ヤマトとは恋愛関係にならないように、あくまでも友人として穏やかな人間関係を築いてきた。
そんなある時、恐ろしい病気が発見された。
何でも大陸の何処かの国で初めて発見されたのだが、全身に痛みを伴う赤い発疹が出て高熱を発して衰弱して高確率で死亡してしまう病気であり、発病した患者を診た医師から周囲の人に感染し今ではその国の都市は封鎖されているとの事だった。
しかし、噂を聞いていたその国の人々は都市封鎖の前に他国に移動しており、その他の国にも発病者が出ているらしい。
ある国では、緊急の要件がない人物の受け入れ拒否をしたりして、自分の国には病気を蔓延させないようにしていた。
しかし、そんな事をしても国に蔓延する事を止められず、人々の交流に文句を言い出す始末だ。
そんな中、私たちが住んでいる国にもその病気が広がってきた。
テレビでは感染者数と死者数が毎日放送され、病気の爆発的な広がりと国や自治体が行う対策の効果の無さが喧伝され、世間には無力感が広がり始める。
ヤマトにも依頼がくるのだが元々、ヤマトは個人の状態を調べながら製薬をするので、薬を作るのが時間がかかってしまい、この病気の進行がヤマトの製薬速度を超えてしまっているので、完治することなく患者が亡くなってしまうのだ。
私は側でヤマトを見ていて、最後の希望として彼に縋っていた遺族が間に合わなかった彼を罵るのを何度も庇ったけど、ヤマト自身は遺族に弁解することなく、ただ深く頭を下げるのみであった。
そんなある時、私は右足に鋭い痛みを感じた。
痛みのある箇所を見るとそこに赤い発疹があり、それはテレビで何回も見たあの発疹だ。
私はヤマトに発疹が出た事を告げた。
その時のヤマトの顔はとてもショックを受けていた。
私はヤマトに依頼するようなお金も無いし、これからは一緒に居られなくてごめんと告げると、ヤマトは寂しそうな顔をしていた。
それから、発疹が全身に広がり始めるのは早かった。
私自身は痛みと高熱でほとんど時間感覚がなかったけど、1週間くらいだったと思う。
ヤマトが悲痛な顔をして、私の側に立っていたから、私は思わずヤマトにこの苦しみから楽になれる薬はないかな?と尋ねるとヤマトは一言、
「治す薬は無いけど、楽になる薬ならあるよ。」
と言って、渡してくれた。痛みと高熱でろくに動けない私に薬を飲ませてくれた後、私の顔を見て、
「君と一緒に人生を歩みたかった。」
そう告げるヤマトに、
私はヤマトに私もと言いたかったけど、薬の効果なのか、徐々に痛みが感じなくなると同時に身体が動かなくなっていく。
これが死かと思って、最後にヤマトの顔を見て、さようなら、こんな事になるなら勇気を持ってヤマトに告白しておけば良かったなと思うと同時に意識がなくなり、目の前が暗くなっていった。
〜~~~~~~~~~~~~~~
「・・・お・・と・・・」
誰かが何かを呼んでいるような気がする。
「オト!」
それが私の名前だと気付くと同時に、私が、目をぼんやりと開けると強烈な光に目の前が真っ白になる。
「オト!目を覚ましたんだね。」
私が眩しさに顔を顰めようとしても、顔の筋肉が上手く動いてくれなくて、声も殆ど唸り声のようなものしか出せない。
「オト、慌てなくて大丈夫だよ。今、細胞や筋肉を活性化する薬を点滴しているから。」
その穏やかな中年男性の声を聞くと何故か私の心は落ち着いて言う事を聞いてしまう。
しばらくして、私が恐る恐る目を開けると眩しさはかなり軽減され、周囲の状況が目に入る。
私はどうやらベッドに寝かされており、泣きそうな顔をしている何処かで見た事がある中年男性が一人、私の側で座っていた。
私は中々声が出せなかったけど、何か喋ろうとしているのが分かったのか中年男性は、
「大丈夫だよ。さっきも言ったけど、点滴が効いてきたら、声も出せるようになるから、ただ、無理はしないようにね。」
そう言って穏やかな顔をして私に笑いかける。
私は掠れるような声で、ヤマトなのかということと私は死んだんじゃなかったのかという2つの疑問を
つっかえながらも尋ねると、ヤマトらしい中年男性は笑顔を浮かべて、
「僕はヤマトであっているよ。オトはあの時飲んだ薬で死んだんじゃなくて、病気の進行を遅らせるために、細胞を維持しながらも殆ど不活性化する薬を飲んでもらったんだよ。」
ヤマトは少し薄くなった自分の頭を撫で、
「まぁ、中々あの病気の治療薬が製薬出来なくて、定期的に点滴で細胞不活性化薬を注入していたから、今、点滴をしている細胞活性化薬も中々効かないかもしれないけど・・・、でもこうしてオトともう一度話すのに二十年もかかっってしまったよ。」
ヤマトが恥ずかしい時によくやっていた頭を撫でる仕草が懐かしく思えた。
しばらくはお互いに懐かしさがあり、2人とも顔を見合っていたけど、しばらくすると看護師が入ってきて、身体の調子はどうとか色々聞いてきたり、採血をしたり、血圧を測定されたりした。
そうして、検査が終わり、ヤマトと2人きりになると、
「僕はオトに振られるのが怖くて告白できなかったんだ。」
そう告げてくるヤマトに、私も才能があったヤマトと釣り合うと思っていなかったから告白できなかった事を伝えると、ヤマトはニヤッと笑って、
「お互い勇気がなくて、初恋が実らなかったんだね。」
ヤマトは薄くなった頭を撫でて、
「だけど、初恋が諦められなくてこんなおじさんになるまで頑張って良かった。もう一度、オトと話す事が出来た。だけど、戸籍上の年齢は一緒だけど、見た目はもうお父さんと娘みたいになってしまったよ。」
そう寂しそうに笑うヤマトに私は側にくるように言った。
ゆっくり近づいてくるヤマトを見て私は素早く計画する。
私の身体、予定どおり動いて!
近くにきたヤマトにしっかりと抱きついて!
中々、でない声よ!ヤマトに抱きついたらちゃんと言うんだ!
「眠り姫は起こした王子様と愛しあって一生幸せに暮らすんだからね!」
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