第三部 死徒会
第25話 小さなアウトレイジ。
学園祭から二週間と少し経った。
「さあ、今日も頑張ろっか!!」
私たちはいつもの部屋へ。
「ふふ。今日も遅刻だね、むしろ殿。」──おぼろ。
「まあむーちゃんらしいね〜。」──そぞろ。
「会長しっかりしてください。規範となるようにですね。」──せひろ。
そして、私の相棒。
「メンバーも揃ったことですし、始めましょうか。」──うつろ。
「そうだね。私たちの生徒会を。」
この二週間でうつろと私は学園を攻め落とした。
少し語弊がある言い方だけど。
『…こんなことをして、ただで済むと思っているのかね。』
『私たち二人に不可能はないわ。』
『青春は無敵です、会長。』
そのあとは簡単。
私達は成り代わった。
生徒会を、そして学園を。
「まず死の特例とされていたのが──」
新しいメンバーのこの娘は元生徒会庶務 蔵人 千紘(セフィロ・クロード)、あだ名がせひろちゃん。とっても生真面目!!
親がスペインだったか、欧州の血を引いているらしい。
彼女はヒューマンコンピュータって言われているくらい記憶力がよく、うつろに実験体として人間の記憶の消去がどこまで影響を与えるのか試されているらしい。
「それな〜。とりあえず死体の保管方法──」
そぞろちゃんも変わりなく。
ただ少し本当の彼女を見せてくれることが多くなった気がする。
「ああ!それは大丈夫だ。某が市役所とのパイプを繋ごう!!かの坂本龍馬は──」
おぼろはうつろに辛い社会人の記憶を消してもらってて、イキイキしている。
そこに監督者としての彼女はもういない。
***
私達は早めに解散し、明日に備えた。
いつ敵襲があるか分からないから。
先週はうつろが5回も襲われた。
あっさり撃退したけど次もできるとは限らない。
迎えはリムジン。
私とうつろはそぞろが雇ったセーフティハウス?で階層別に暮らしている。
この前うつろの家にヒットマン?が送り込まれたからだ。
意外と楽しく、ガードマンもついて気分はすっかりお偉いさん気分。
家についてふと考え込んでしまった。
時間だけが過ぎていく。
…生徒会長なって初めて気がついたことは市役所とのイベントが多いことだ。
学校の代表としていろんなところに顔を出す機会がたくさん。
さらに仕事もいっぱい。
「…生徒会長って辛ーい!!責任が重い重ーい!!」
アトラスのごとき重い重圧!!
もう!!誰?生徒会長になりたいって言ったあんぽんたんは!!
「…もう手に入れたのは重責ばかりじゃないでしょ。」
背後にはうつろがいた。
「音もなく後ろに立つのやめてっていったじゃん!!」
「まあまあ、こんなことできるの私くらいだし大丈夫よ。」
「…いやそういうことじゃないのよ。」
うつろは人格矯正センターに入ってから人間性、というか感情の起伏が大きくなった気がする。
というか、甘えん坊になった?
幼くなった気さえするのだ。
…変わったのは私も。
黄金の日を迎えてからというものの、本当に生きる意味をなくしてしまった。
あとは計画を成就させるだけの空虚な人生。
失敗しても私の意識は消える。
そうどちらにせよ死ぬ。
まったく無駄な時間。
そんな気だるげで愛想のない私にも最強の仲間たちがいる。
報いようと思う。
それだけで脆い私の芯が自立する。
うつろが猫撫で声を出した。
「ねぇむしろちゃん今日は泊まってもいいかな。一人じゃ怖くって。」
私の記憶が確かなら、銃を持った男性三人をあっという間に蹴散らしたはずなのだが。
「寝床が狭くなっちゃうじゃん。」
「お願いむしろちゃん!!」
うつろは手を合わせている。
生まれて一度も仏様に祈ったことがなさそうな彼女がだ。
「もう。荒らさないでね。」
「わーい!!」
うつろはもしかしたら私の死に興味ないのでは?
そう思えるくらい平和で普通の女子に成り下がってしまった。
(まあ解釈違いとか言って殺してくるシリアルキラーよりマシだけど…。)
このベッドは一人用。
故に狭い。
でも冬が近いこともあってか寝心地はいい。
「むしろちゃん…。」
「何?」
「必ず。…必ず殺すから…。」
「うん、約束だもんね。」
うつろの根源は変わっていないようだ。
死を撮る、という夢。
そんな彼女の行動原理。
芯。
それを確認できてよか…。
ピロロンピロロン。
気づけば寝ていたようだ。
うつろの携帯のアラームを止める。
「起きて、うつろ。」
***
「私たち生徒会は来週の火曜日、市役所並びに税務署など個人情報を扱う組織を襲撃します。」
「全てはむしろちゃんの死を隠匿するためです。」
「撹乱用に、全校生徒、またそぞろが雇った債務者、無敵の人、親から見放されたニートたち総勢1000名を各地に襲撃させます。」
「何か質問のある方はいますか?」
手を挙げたのはせひろ。
「まだ洗脳方法が確立していません。それに全校生徒を対象とした洗脳は時間がかかり来週に準備するのは不可能かと。」
洗脳というワードに疑いを持っていない。
うつろの作用はかなり高水準に達している。
「…洗脳方法については口外致しません。しかし可能です。また全校生徒を対象とした洗脳、これもオールグリーン。明後日の生徒集会で洗脳を施す予定です。」
うつろと私の二名で600を超える人間の脳を切り刻む。
まったく骨が折れそうだ。
(私も何かしなくっちゃ。)
全てが私を中心にまわっている。
全てが順調だ。
死が手の届く位置まで来ている。
なぜ彼女たちがここまでしてくれるのか、何が彼女たちの心に刺さったのか。
そんなのはわからない、それに聞くつもりはない。
そうだよね、うつろ──。
来週、国に喧嘩を売る。
もう戻れないところまで来てしまったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます