第3話 こいつぁ激重ヤンデレちゃんだぁ
「部活を作りたい!?」
出会って三日目、私を突き落とし、あまつさえ次の日には毒を盛った人間からの打診だった。
部活設営なんて考えたこともなかった。
話を聞いてみると
”死”を目的とした部活動運営、通称『死活部』。
その理念はもはや研究会である。
うつろは真剣な顔で言う。
「私たちには足りないものが多すぎると思うの。むしろちゃんの夢に近づくためにはいろんな死因を試さなくちゃいけないし…。人も知識も足りないけれど、一番はお金。昨日使った青酸も結構なお値段したのよね…。」
全く…殺すなら事前に言ってほしいものである。
しかしうつろの言い分もごもっともだ。
【 自殺には金がかかる!!】
⋯⋯⋯これは中二の夏の出来事。
練炭が高かった。
幼い私でも実現できそうな自殺方法は金の壁にさえぎられた。
結局、安いワイヤーを買って、首を吊ったのだけれど、数時間後には生き返り、施設の職員にめっぽう叱られてしまった…。
そんな──苦い過去を思い出した。
しかし、学校側がそんな不透明かつ内容が物騒なものに金を投じるかは微妙だ。
そんな簡単に資金の提供が降りるのだろうか?
…さまざまな疑問が
私にできることは前進あるのみ、挑戦してみるべきと考えたためだ。
「そうだね、部活作ろう!!実績さえ作れれば学校からお金も出るし!!」
うつろは私が賛を示したのがよっぽどうれしかったようだ。
目を輝かせていろいろ調べた資料を自慢げに見せる。
校則や活動申請書、今ある部活に、廃部した黒歴史のリストなど。
これをたった一日で…。
狂おしい情熱、私はドン引きだった。
資料を目に通すと一つの箇所が気になった。
「…部活動申請には最低5人と部員と担当教員の同意だ必要って書いてあるけれど…。」
彼女の顔が青くなる。
「え?そんなはず…。あ、書いてある。」
どうやら見落としがあったらしい。うつろにも人間らしいところがあるのだと私は安堵した。
(ってそうじゃなくて、このままじゃ部活の申請すらできない!どうしよう。)
お互いにテンパっていた。
「…どうやら困っていそうね。」
入口から声がする。
うつろは口を大きく開けている、どうやら仕込みではないようだ。
「めいろ、なんでここに、いやなんでここが?」
「誰?うつろの友達?」
「私はうつろの親友だから、どこにいてもわかるんだから!!」
姫カットが特徴的な彼女はうつろとの密接な関係を匂わせるようだった。
私が彼女のことのチラリと覗くと顔を露骨に歪ませた。
「何見てんのよ。」
「えと…なんでもないっす…。」
この人、こわぁい。
「こら、めいろ、むしろちゃんをいじめないで!」
「うつろ、あなたは部員が足りなくて困っている。そう、今回の主導権は私にあるのよ。口を挟まないでもらえる?」
彼女は萎縮せず毅然としている。
そうして私に目線を合わせてきた。
その目は鷹のよう。
「一応、名は名乗っておくわ。私は人道 明路(じんどう めいろ)。うつろとは幼稚園からの古い、古い友達。ぽっと出のあなたと違ってね。」
すごい剣幕、この人と話したくないよぉ。
でも勇気を、出さなきゃ…。
「──私は、木上 夢白、うつろさんとは友達デス…。よ、良ければ、ぜひ『死活部』に入りませんか!?」
「いやなんだけど。はっきりいって不健全ですもの。」
ぐええ、おっしゃる通り!!
オワタ…グッバイ儚い私の勇気。やっぱり私は誰とも関わるべきじゃないんだ…。
その時ッ
「めいろ、お願い。私たち、親友じゃない。」
何かが弾ける音がした。それはめいろの意固地が崩壊した音。
同性でも誑かされる。情欲をそそられる。そんな耽美な物言いだった。
「あんたって奴は…。いつもいつもそう。私の弱いところを…。ああっもう。今日はソイツの品定めに来ただけだったのにィ。」
彼女は頭をくしゃくしゃにしてこちらに向かってきた。
「…今回だけよ、うつろ。」
彼女の顔はほんのり赤く見える。
二人の間には交わってはならない大人の雰囲気があった。
(まあ、私は誰ともそう言う関係になるつもりないけれど。)
「ありがとうね、めいろ。」
「入ってくれるってむしろちゃん♡」
うつろはめいろの手を一瞬握ったかと思えばこちらにやって来た。
((!?!?!?))
二人の頭上に驚きが浮かぶ。
その奇想天外な行動に。
まるで貢いだホストが別の女子にデレデレになるような脳破壊もの。
「あの…うつろさん。」
私は素っ頓狂な声が出る。
「その、
「…めいろは一度した約束を破る奴じゃないわ、だから…」
「次の死を決めましょう♡」
もはや彼女は用済みと言っているように聞こえた。
うーん残酷。
彼女の興味の方向は一気にこちらに向かった。
そうして奇妙な三角関係が築かれた。
(私を巻き込むなぁ!!普通に死にたいだけなのに。)
うつろに嘆きは届かない。
慟哭に駆られた哀れな負けヒロインは鬼と化した。
一刻も早くこの状況を打開したかった私は慌てながらも別の話を立ち上げようとした。
めいろも話せる、そうだ部活の話にしよう。あと二人の部員をどうするか、とか。
「ほら、うつろ。めいろが。アレ?懐から何か取り出して…」
銃。
「なんで高校生がそんなブツ持ってるのさ!!」
「護身用よ、グッバイ泥棒猫さん。」
「うつろは私の親友だから、私だけのッ!!」
おお。こいつぁ激重ヤンデレちゃんだぁ。
ズキューン。
めいろが放った玉は正確に私の心臓を撃ち抜いた。
世界がスローモーション。
走馬灯も流れるがろくな思い出がないなぁ。
目覚めると一人保健室だった。
「大丈夫かな、今後。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます