第7話 合同演習、初めての実戦連携

セイリュウ魔導学園・初等部3年。

午後の魔導演習場には、ひんやりとした緊張感が満ちていた。


今日は、二人一組で行う“実戦形式の連携演習”。

この結果は、次回のクラス成績だけでなく、未来の《特進クラス》選抜にも影響する、重要な訓練だ。


「ペアは任意で組んでもよし。組めなかった者はこちらで割り振る」


教師の一言で教室がざわめき、空気がざらつく。

しかし悠真の隣には、すでに綾乃が立っていた。


「一緒にやろう。いいよね?」


「えっ……あ、うん。もちろん」


――その瞬間、周囲の視線が一斉に集まる。

ざわめきはすぐにざらついたものへと変わり、誰かが低く呟いた。


「え、綾乃が……神谷と?」


「なんであんな子と組むんだろう」


「綾乃さんって、前は一人で黙々とやるタイプだったのに……」


嫉妬や驚き、少しの疑念。

悠真は鋭い視線を背中に感じながらも、視線をそらさなかった。


(わかってる。俺みたいな“落ちこぼれ”が、綾乃さんと組むのは異例だって思われてる)

(でも、もう逃げない)



◆ 実戦連携、開始


模擬戦の相手は、自律型の「演習ゴーレム」。

攻撃、防御、補助――二人の連携が試される。


合図とともにゴーレムが動き出す。

綾乃が素早く前に出て、敵の注意を一身に引きつけた。


「私が引きつける。神谷くん、今のうちに!」


悠真は魔力を手のひらに集中させ、身体中が熱を帯びる。

緊張のなか、呼吸を整え詠唱を始める。


(絶対に失敗するな。集中……!)


「《炎精よ、我が意に従い、螺旋の熱を放て──火種・旋》!」


炎の魔法は、狙いすましたようにゴーレムの脚元へ。

その動きが鈍った刹那、綾乃の氷結魔法が鋭く炸裂し、敵の動きを完全に封じる。


その隙に悠真はすかさず第二撃を放ち、見事に討伐を成功させた。


「神谷&一ノ瀬ペア、討伐成功。評価:A」


教師の声が響くと、演習場には一瞬の静寂が訪れた。


「……神谷、すごくない?」


「マジで当ててた……しかも綾乃さんと完璧に連携して」


「神谷がA評価って……何かあったのか?」


ざわめきは、軽蔑や無関心を少しずつ驚きや期待へと変えていった。



◆ 小さな自信


「……すごいよ、神谷くん」


演習後、綾乃がほんの少し顔をほころばせて言った。


「支援魔法、完璧だった。まるで昔から一緒に組んでたみたいだったよ」


「うん……ありがとう。でも、綾乃さんの指示があったからこそ……」


「違う。自分の判断で撃ってた。ちゃんと見てたんだよ」


その言葉が、悠真の胸に灯をともした。


(誰かに“見てもらえている”って、こんなにも嬉しいものなんだ)

(前の人生では味わえなかった感覚……)



◆ 特進クラスの話


帰り道の廊下で、綾乃がぽつりと話し始めた。


「特進クラスは中等部からの存在でね、エリートだけが集まる選抜クラスなの」


「中等部からしかないんだ……」


「そう。だから私たち初等部は、今は基礎を固める段階。魔導の技術も戦術も、もっと高度なことを学ぶのは中等部になってから」


悠真はその言葉を胸に刻む。


(中等部からの特進クラス……目標は変わらない)


綾乃は少し微笑みながら続けた。


「だから今は、こうやって実戦経験を積むことが大事。神谷くんなら絶対できるよ」


悠真は小さく頷いた。



◆ 新たな影


演習の合間、遠くの演習場の隅に視線を向けると、一人の少女がいた。


黒髪を短く切り揃え、無表情で静かに演習を見守る――紫月理央。

彼女はただ優秀なだけではなく、場の空気を支配するような存在感を放っていた。


彼女の演習が始まると、魔法の融合でゴーレムをわずか数秒で倒す。

周囲がざわつき、その名を囁く声が聞こえた。


「また紫月理央か……やばすぎ」

「ひとりでA+だなんて、チートじゃん」


悠真はその名前にかすかな既視感を覚えた。


(……どこかで聞いた気がするけど、前回は余裕がなくて……)


理央は悠真に目もくれず、静かに去っていった。



◆ 夕暮れの中で


夕日に染まる廊下を歩きながら、悠真はぽつりとつぶやいた。


「……僕と組んで、本当に良かった?」


綾乃は立ち止まり、優しく振り返った。


「うん。神谷くんとだから、あの結果が出せたんだよ」


そして付け加える。


「次の演習も、私が希望出す。絶対一緒にやろうね」


その言葉に、悠真は強く頷いた。


(もし、前世でもこんな風に誰かと並んで歩けていたら……)

彼はそっと未来を見つめた。

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