『堕天使』と『魔物』の間で……③

 さて、語り手と場外乱闘の後、廊下に『TypeΩタイプオメガ』を運び、起動試験を行う『2バカコンビ』……愚かにも勝負を仕掛けて語り手の心証を更に悪化させたので、彼奴等こいつらの扱いがかなり雑になることをご容赦願いたい。


 足先から立ち上がるメカノイドの黒光りに、真人は感極まったように呟く。


「見よ……これぞ漆黒の機神。闇より生まれ、混沌を喰らう我らの眷属……!」

「流石は在原氏だ……人智の及ばぬ技術の結晶……!」

「早速稼働させよう!」

「うむ。では、見せてもらおうか……我等が決戦兵器『TypeΩタイプオメガ』の性能とやらを!」


 愚かにも弓弦の忠告を完全にスルーした二人は『高機動試験』と称し、リモコンを握ってモーションプログラムを実行させた。黒光りする脚が低く構え、床を這うその姿は、まさに巨大な蜘蛛だった。


「では、獲物を試すとしよう……!」

「おお、お誂え向けに二つの生体反応……この気配……間違いない! 女子エネミーだ」


 自らを『闇の存在』などと称するほざく二人は、異性の気配には妙に敏感だった。

 奴等の野望……すなわち妄想の城を最も容易く打ち崩すのは、女子が持つ『実用性・快適性・共感性』という三大兵器である。

『浪漫の世界』では造形美や機構の妙こそ至高なのだろうが、女子にとって優先されるのは、そんなマニアックなものではない。


 おとこなら一度は夢にするフェ〇ーリやラン〇ル〇ーニなどのスーパーカー。しかし実際に運転するとなるとそう簡単ではない。まして背後に大きなエンジンを積んでいる。快適な訳がない。

 そして彼等が助手席に乗せたいと思う女性は、大概にして車に興味はない。ただデカく・低く・狭く・暑く・うるさいクルマより、静かで快適でお洒落なクルマの方が良いに決まっている。


 確かに個々の女子がそうとは限らないだろう。しかし、マクロの視点では、女性は使いやすさ、心地よさ、そして他者と感情を分かち合えることに重きを置く傾向にある。

 妄想や浪漫の世界で生きる男子とは、価値観の軌道が根本から違う以上、どれほど熱弁しても交わることはない。

 その浪漫の極致にいる二人は、当然女子と交際したことなどある筈もなく、ただ怪しげな行動をする不審者として奇異の目で見られている。


 ともあれこの者共は、こうした過去の経緯いきさつから女子を『エネミー』と認識し、あらゆる女子から自発的に距離を取るようになった。


 その結果、気配を察知する能力は自然と研ぎ澄まされていく。極めて無駄な能力としか言いようがないが、それでも奴等は今、無駄に強力な武器を手にしてしまった。

 猫に小判、豚に真珠、類人猿に銃とばかりに、最前線で戦う尖兵……『TypeΩ使い魔』がいた。


「さて……生贄えものはどこだ……?」


 理人が笑みを浮かべ、センサーが捉えた二つの反応を指差す。


「フッフッフ……誰だか知らぬが、我らの野望の供物となれ!」


 真人がコントローラーを操作すると、『TypeΩタイプオメガ』は、素早く行動を開始する。まさに蜘蛛のように俊敏に!


 ところが、廊下の向こうに姿を現したのは、極めて見覚えのある二人だった。

 金髪を揺らし、短い丈のスカートから健康的な脚を惜し気もなく披露するひかると、さらさらと揺れる黒髪、切れ長の目でこちらを射抜く玲子だ。


「……なっ……!?」

「ま、まさか……『殲滅の天使』……!?」


 一方、ひかると玲子もまた、目の前に迫る異形に一瞬息を呑む。


「ちょっと待って。何よ、アレ!?」

「やだ、蜘蛛? キモイんですけど!」


 互いに虚を突かれ、場の空気が凍りついた。

 金属の脚が床を叩く音だけが、不気味に響いていた。驚き戸惑うひかると玲子だったが、その先にいつもの二人組を見かけるとその緊張が解かれた。


「は……? また、あんた達なの?」

「……何してんの?」


 ひかるが腰に手を当てて、玲子が腕組みをして睨みつける。しかし、真人と理人も状況を把握したのか、口元が吊り上がって応えた。


「何という僥倖ぎょうこう! 天使どもが、自ら死地に赴いてくるとはな、標的ターゲット01そして02……!」

「今こそ、我等の叡智の粋を以て、貴様らの防御網を突破する!」

「は?」

「こんなキモイもの作って……バカなの?」


 玲子とひかるの素直すぎる感想に、真人が「ぐぬぬ!」と歯ぎしりする。


「おのれ……我等が浪漫と叡智を再び愚弄するとは!?」

「断じて許せぬ!」


 理人が腕を振り上げ、ひかる達を指差した。


けっ! 『TypeΩタイプオメガ』 っておしまいっ!」

「あらほらさっさー! ポチッとな!」


 まるでタイム〇カンのように、まるでポケ〇ントレーナーのように、使い魔に指示を下しているように見えるが、操作しているのは真人だ。

 弓弦から受け取ったばかりのコントローラーを、何故か手慣れた手つきで操っている。

 指令を受けた『TypeΩタイプオメガ』は、一直線にひかるのミニスカートの裾へ向かう。その飽くなき執念たるやドン引きするほど凄まじい。


「下がって、ひかる!」


 玲子が素早くひかるを後ろへ引き下げ、一気に蹴り上げる。細長くスラリと伸びた脚が、強かに『TypeΩ使い魔』を捉えサッカーボールのように弾き飛ばしていく。


「なにぃ!?」

「クソッ! 見えなかった!」


 驚愕する真人と呻く理人……いったい何が見えなかったのだろう?


 ともあれ20mほど吹き飛ばされた『TypeΩタイプオメガ』は、ガシャンという音と共に床に叩きつけられ、見事に裏返った。

 ひかるの強烈な一撃を受け、暴走ロボは無残に破壊されたかに見えた。

 だがしかし、内蔵の制御系統は完全には崩壊していなかった。ロボットは痙攣しながら6本の脚を虚空に動かしている。


「クッ……防御反応、予想以上……!」

「立て、立つんだ〇ョー!」


 オタクネタを全力全開にして、騒ぎ立てる2バカ達。終いにはプリ〇ュアのミラ〇ルラ〇トを持って応援している。いったい何処で手に入れたのか……? 道を極めるとこうなってしまうという典型である。


 やがて、ギギギという音がして、『TypeΩタイプオメガ』の脚が動き起き上がろうとする。衝撃により。既に上半身を覆う外板は外れ、飾りだが装備した武装ウエポンも脱落し周囲に散乱している。


「なっ……『TypeΩタイプオメガ』?」


 直後、制御信号が乱れた。

 突如、グポンという効果音と共に、主構造体メインフレームの一部……LEDの瞳が……今度は赤く輝き始めた。まるで邪悪な生命体が復活するかのように、目が赤く光ってしまうのは、お約束なのだろう。

 上部構造が脱落した『TypeΩタイプオメガ』に残っているのは2本の長いロッド状の受信アンテナのみ。黒光りする細長い形状へと変化し、6本の脚は、重い上部構造物が無くなって、動きが3倍速くなったように見えた。


「待て!『TypeΩタイプオメガ』!」

「せめて塗装を赤に! 頭に通信ブレードを!」


 突っ込む所が違う……しかし、そんな奴等の言葉など聞く耳持たないと主張するかのように、『TypeΩタイプオメガ』は突如として暴走、回転しながら2年C組の教室の中へ飛び込んでしまった。


「これが第二形態か!?」


 理人が焦燥混じりに叫ぶ。

 まるで怪物が目覚めるように、その姿は一層不気味さを増し、二本の長く伸びたアンテナが禍々しく揺れる。色彩も黒と灰色が混じり合い、まるで巨大な『物体G』そのものだった。


「何という事だ?」

「『TypeΩタイプオメガ』が『TypeGタイプジー』になってしまうとは……?」


 予想外の変態に、さすがに2バカコンビも気色ばむ。

 そして次の瞬間、暴走ロボは教室内を目にも止まらぬスピードで走り出す。それはまさに『学園の地下に潜む闇の王』の化身とも言うべき無双ぶりであり、血相を変えて逃げ惑う女子生徒達の悲鳴が校舎中に響き渡った。

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