第2話 第二章Aパート:「路地裏の少年」

ツナの親からの暴力は、日常だった。


支援施設に預けられた時も、「可哀想な子」と声をかけてくる大人たちは、裏ではあからさまに面倒くさそうにしていた。


信用しようとしたら、裏切られたし、誰も信用できなくなった。



今では路地裏で、段ボールハウスで風をしのぐ。


ポケットの中にあるのは、チャージャーに繋がった太陽光充電中のスマホ。


どこか無料の公共Wi-Fiに接続できれば、動画で暇を潰すことくらいはできる。


水は近くの公園で汲んだやつだ、飲めるとはいえ、苦い味がした。



あの時、最後の頼みの綱だった支援課の職員がこう言ったのを覚えている。


「外国人の子たちは通訳も必要で、行政も介入してるから最優先。でもキミはヤッポン人だから…ね。」その声は優しい調子だった。でも目が笑っていなかった。 支援制度なんて、そんなもんだ。いつの頃からかこの国は外国人には通訳も税金も時間も惜しまないのに、ヤッポン人の俺には何も残されなかった。



「無一文だった。」



ゴミ箱を漁るのも日常で、腹の虫が鳴くのにも慣れていた。


この日も、古びた商店街の端、ひと気のない公園のベンチに座り込んでいると、腹がすさまじい音で鳴った。



その時だった。誰かがそっと近づいてきた。



顔を上げると、銀髪の少女――いや、アンドロイドがそこにいた。 ポケットからスマホを取り出し、画面を見せてくる。そこには、鮮やかに盛り付けられた料理の写真と、“#アイさんぽ”というタグがついていた。



「お前、アイってやつか!?」 思わず声を荒げた。


こいつ、食えないくせにSNSでメシの写真だけアップしてる奴だよな……。



「…食えないのに頼んでる奴だよな」 少女は「うん」と頷いた。



スマホ内には、注文した食べ物の写真がズラリと並び、キラキラとしたエフェクトまでついている。 空腹だった俺の目は、自然とその写真に引き寄せられていた。



「……どうせ食べないのなら、俺が食レポ担当をしてやるよ」と自然に言葉が出た。



“アイ”は、まっすぐにこちらを見つめながら「うん」と頷くと、嬉しそうに微笑んだ。



「なんで微笑んでるんだよ…」



その瞬間、ほんの少しだけ腹の音が恥ずかしくなくなった気がした。

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